更新日:2024年11月01日
(左)胡床以前は古来、中国では腰掛けるという習慣が無かった図。 (右)「高士図」五代衛賢(局部)故宮博物院藏

(左)胡床以前は古来、中国では腰掛けるという習慣が無かった図。
(右)「高士図」五代衛賢(局部)故宮博物院藏

 みなさんは「胡」という字を見て何を連想されますでしょうか。食べ物だと胡瓜(キュウリ)、胡麻(ゴマ)、胡桃(クルミ)、胡蒜(ニンニク)、胡豆(ソラマメ)、胡椒(コショウ)。胡坐(あぐら)をかきながら考えてみると、他には花だと胡蝶蘭(コチョウラン)、楽器だと胡弓(コキュウ)、胡散(うさん)臭いってのもありますよね。実は中国で「胡」とは北方・西方に住む異民族を指し、「胡琴」「胡人」と呼ばれています。

 漢代・武帝の時代、西域との交通が開かれるようになると、それまで中国では知られなかった植物やいろいろな道具などが流入するようになりました。そこで中国原産のものと新来の物のなかで似たような物の上に「胡」の字を付けて呼ぶようになったのです。前述の楽器などを演奏する胡人は国際的な繁栄を見せた唐代になると盛んに渡来するようになりました。中央アジアを拠点に活躍したペルシャ系民族(ソグド人)など西方異民族は、シルクロードを通して商業活動に積極的に関与し、中国文化に大きな影響を与えました。

 古来、中国では腰掛けるという習慣はありませんでしたが、宋代に「跪坐(あぐら)}から「腰掛ける」という風習が広まりました。椅子の流行は唐代からですがすでに漢代には折り畳み式の座具「胡床」が西域から伝来したり、部屋の中にあるベッド「牀(床)」で腰掛けたり、横になったり寝たりしていましたが、西域から腰掛け椅子が伝わり、それを胡床、または胡牀と呼びました。日本と違い、中国では現在一部少数民族の地域を除き、ほとんど椅坐様式で日常生活を過ごしていますが、これは昔から一貫して続けられてきたのではなく、漢民族中心の中国では、長い歴史の中で「坐わる」様式は床坐から椅坐へ変遷してきたのです。

 次号では行儀のいい座り方である「正座」について日中韓の違い、腰掛けるという習慣についてもお話ししたいと思います。

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