端渓老坑水岩硯-2
更新日:2018年09月15日
老坑水岩の洞坑の大きな特徴ですが、他の洞坑は複数の坑道を持っているのに対し、人ひとりが腹這いでようやく通れるほどの狭い、たった一つの坑道しかないことです。この坑道、入口は一箇所ですが、先人の石工たちがよりよい坑脈を求めて掘り進めた結果、洞中は幾つもの分岐洞があり、さながら蟻の巣窟のようになっています。そのなかで優れた四つの分岐洞は「東洞」、「小西洞」、「正洞」、「大西洞」と名付けられ、それぞれ特徴のある硯石が採石されました。1999年、老坑は一時的に採掘禁止されることになりましたが、2002年に端石老坑洞遺址に指定、坑道入口の小川「端渓」によって水没させ柵が設けられたため、今後、老坑の採石は現実的に不可能になりました。
端渓の特長は、魚脳凍、蕉葉白、青花、天青、冰紋凍などの石紋、そして石眼は水巌硯に現れるものがより美しく、石質も群を抜いています。老坑水岩の特長は、
@温潤で透明感の高い玉質
A美しく豊富で鮮やかな石紋がある
Bきめ細かく緻密で強靭な鋒鋩を持ち、鋒鋩が損なわれない
C使用頻度に応じて質感が温潤玉質を呈する
が挙げられますが、昔から「老坑を手にすれば、他の硯石は棄てるべき」と言われるほど魅力のある硯石なのです。端渓老坑水巌硯石のなかで最も優れた硯石は「大西洞硯石」で、石紋は豊富でバラエティーに富み、鮮やかな色彩を放ちます。鋒鋩は極めて微細強靭、良質古墨の発墨に力を発揮するのに最適の硯石ですが、逆に大西洞硯石ほど墨を選ぶ硯材は少なく、中国・清朝末期以前の良質な古墨のみを用いるよう留意するべきと言われています。いずれにしても用美兼備の硯史上、至宝中の至宝と名高い名硯です。これまで多くの書籍、文献で紹介される有名な硯が、刻銘や硯式だけでその採石された時代や坑脈などが鑑別しえいますが、はたして本当に信用出来るのでしょうか。水岩には余りにも贋物が多く、鑑定の根拠についても俄に信用出来ません。多くの名硯を見て、実際に使用しないと納得したり、その良さを理解するのは困難だと思いますが、変貌する「力」を持った端渓大西洞硯に巡り会いたいものです。
写真左は老坑水巌坑の洞口、そして右上は日本の中国硯研究の第一人者・坂東貫山が自宅売却してまで入手した「端渓老坑水岩坳雲硯」、下は筆者蔵「端渓老坑水岩硯」ですが、温潤できめ細かい石質で、微塵青花、蟻脚青花、冰紋凍、金線など石紋も豊富でバラエティーに富み、太陽光の下で見ると無数の小さく光る金属のような鋒鋩が強靱で、いかにも溌墨が良さそうです。硯裏上部には古来、珍重されてきた皮が残されており、頻繁に水に漬けて現れる石紋を眺めてニヤついてます。