とくに中国の闇市場における原木(未加工象牙)の卸売価格は、2014年の最盛期には一キロ単価が2,100ドル(約23万円)でしたが、中国経済の減速と、汚職取り締まり強化の影響で、役人などへの象牙装飾品贈答が激減したこともあり、今年の初めには一キロ単価が730ドル(約8万円)まで下落しています。
これまで象牙の需要により、密猟者らによって毎年3万頭ものアフリカ象が殺害される状況が続いていましたが、昨年末、世界の象牙市場の7割ものシェアを占める中国が今年末までに国内の象牙取引と加工を全面的に禁止すると発表し、世界に衝撃を与えたのです。中華人民共和国国務院の発表を受け、現在、認可を受けて象牙を加工している国内34の工場全てが閉鎖されます。
象牙を取り扱う小売店も全てなくなる予定です。来年以降は博物館での展示など文化目的以外の受け渡しを認めない内容で、店舗販売はもちろんネット取引も厳格に取り締まるそうです。また、中国天然資源保護協議会が象牙彫刻家や職人など象牙業界の労働者を、博物館の象牙工芸品修復など他の分野へ転向支援するそうです。贅沢や自己満足のために象牙を用い、それによりひとつの種を絶滅に追い込むことは現代に生きる文明人として熟考する必要性を感じずにはおれません。
写真は台北故宮博物院が所蔵する19世紀に広東地域の象牙彫刻職人が親子三代、120年に亘って製作したと言われる象牙多層球作品「鏤彫象牙雲龍文套球」で、球の直径が約12センチの象牙球表面から中心に向かって八方から円錐形穴をあけ、そのなかに直角に曲げた鈎を使って内側から外側へ24の均等間隔で一層ずつ球を彫り進め、さらに各層に透かし彫りの幾何学文様を施しています。
そして表面には9匹の雲龍文が、それを支える円柱台座には人物が浮き彫りされています。驚くべきは全く継ぎ目のない球は全部で二四層もあり、各層全てが自由に回転することが出来る精巧を極めた作りになっています。台北故宮博物院に行かれたら、あまりにも有名な翠玉白菜や肉型石とともに、こちらもじっくり観察してみてください。