大地之子(大地の子)-1
更新日:2014年10月01日
●大地の子
昨年、直木賞作家・山崎豊子さんが八八歳の生涯を閉じました。山崎さんといえば『白い巨塔』や『沈まぬ太陽』が有名ですが、筆者にとって最も印象に強く残り、山崎さんの最高傑作だと思っているのは、中国残留孤児の波乱万丈の半生を描いた『大地の子』です。終戦50周年、NHK放送70周年記念企画として中国中央電視台と共同制作されたドラマ「大地の子」は1995年(平成7)に放送されましたが、日本名優・仲代達矢、中国名優・朱旭を始め、宇津井健、田中好子など豪華出演者も話題になりました。しかし、それよりも主演に当時、まだそれほど有名ではなかった上川隆也を起用したことと、彼の中国語の発音があまりにも正確なのには驚かされました。
物語は、日本の敗戦時、信濃郷満州開拓団にいた主人公・陸一心が小学校教師の中国人養父・陸徳志によって育てられますが、「小日本鬼子(日本人への蔑称)」への過酷な差別体験を生き抜き、やがて大学を卒業して鋼鉄公司に就職するものの、今度は文化大革命に巻き込まれ、囚人として労働改造所に送られるなど壮絶な苦労をしながら成長するストーリーでした。「千辛万苦」という単語を覚えたのもこの物語のおかげです。また、物語を通して、1960年頃から約30年間における戦前・戦後の歴史観、戦争の悲惨さ、文化革命の歴史的意義、中国国内の権力争い、そして日中国交正常化、日中経済格差、なども真正面から描かれました。
次号では山崎さんによってこの物語が描かれた背景、真の日中友好に尽力した当時の中国共産党総書記・胡耀邦について触れたいと思います。