今月号では「篇と編」の違いについて考えてみたいと思います。まず「編」は常用漢字で一般的に用いられますが、「篇」は常用漢字ではありません。
篇は竹かんむりに扁、編は糸へんに扁ですが、そもそもこの扁は、いた「板、版」やふだ「札」の意で、篇は竹で作られた札で、つまり古代中国で文書通信に用いられた竹簡のことです。竹簡はその後、書物の意味に派生しましたが、巻同様に書物の分類に用いられるようになりました。
「篇」は、紙が発明される以前、文書通信、記録を目的とした媒体が竹簡、木簡であったことに由来しています。短歌や俳句なども昔は木簡に書かれていたため「篇」と数えたり、他に「前篇、後篇」や『論語』学而篇などがその例として挙げられます。
つまり、古代中国の書物には竹簡が用いられたことから、書籍の「籍」、書簡の「簡」、便箋の「箋」、名簿の「簿」などのように、字を書くために用いられるために使われるものの語には竹かんむりが付きます。次に編は竹簡や木簡を糸を用いて綴じる意で、糸で編んで書物を作る意味になりました。
竹簡、木簡は一番上に穴をあけて紐を通して編んで、ひとくくりにして保管する様子から、本を作ることを「編」と言います。「編輯(編集)」、「編纂」、「共編」などを見ると分かりますが、まとめられたものを「編」と数えるようになりました。
「篇」と「編」では、意味も用法もその違いが明らかです。日本政府は敗戦後に「当用漢字(現在は「常用漢字」)」を定めましたが、そのときに「篇」を掲載せずに「当用漢字表」に掲載しない漢字を「同音の漢字による書きかえ」としたのです。法令、公用文書、新聞、雑誌、放送、学校教育などでは代用字として「編」を使用しています。
余談ですが、「偏」という漢字もあります。片寄った考え方の「偏見」や、好きなものしか食べない「偏食」などに使われます。「遍」と「偏」では全く意味が変わる用法があります。「遍在」は広く行き渡り、どこにも存在する意味ですが、「偏在」は一部分のみに、片寄って存在する意味になります。
次号では、一時、真贋論争にもなった竹簡騒ぎですが、香港・清華大学にある竹簡の調査結果から大変、興味深い発表がありました。ご紹介したいと思います。