お香の原料になる代表的な香木「沈香(ジンコウ)」は、正式には「沈水香木」といい、東南アジアに生息するジンチョウゲ科ジンコウ属(学名:アクイラリア・アガローチャ)の植物です。風雨や病気・害虫などによって原木がダメージを受けたとき、内部に樹脂を分泌して蓄積、沈着することで比重が増し、原木が樹脂化したその重みによって水に沈むようになります。
ここから「沈水」という名称がつけられたようです。幹、花、葉には香りがありませんが、熱すると独特の芳香を放ちます。同じ木から採取したものであっても微妙に香りが違うことから、香道では白檀とともに組香での使用に適していると言われています。
その香道とは、一定の作法のもとに香木を焚き、立ち上る香りを鑑賞するもので、「香あそび」とも呼ばれています。香木を味覚にたとえ、香りを辛(シン)・甘(カン)・酸(サン)・鹹(カン)・苦(ク)の「五味」という五種類に分類しています。また、それぞれの含有樹脂の質や量の違いから、伽羅(きゃら)、羅国(らこく)、真那伽(まなか)、真南蛮(まなばん)、 佐曾羅(さそら)、寸聞多羅(すも[ん]たら)の「六国(りっこく)」と呼んで分類しています。
この「伽羅」は、沈香のなかでも特に質の高いものですが、油分が多く色の濃い沈香を「黒沈香」と呼び、これが「伽羅」の語源となったようです。美しい女性を「伽羅女(きゃらめ)」といい、金銀の隠語にも使われるなど、極めて珍奇・珍重であることから乱獲されるようになりました。そのため現在はワシントン条約の希少品目第二種に指定され、輸出入には許可が必要となりました。
入手が困難になると、当然、「伽羅」の価格は上昇し、これで一儲けしようとする輩が現れ、それが組織化されていくと巨額な富を手にする者も現れるようになります。次回はその辺りの話にも触れてみたいと思います。