羊が表す美と養と羨-2
更新日:2016年07月15日
羊の話に戻します。食べ物を与え、育てて豊かになる羊は富の象徴でもありますが、他人が豊かになると「羨望」字になります。他人を羨む「羨」字にもやはり「羊」が用いられます。温厚で飼い主に従順な「羊」は、やがて価値観を表すときの部位として用いられるようになりました。「膳」字はまさにその典型で、豊かになった人は肉食者になります。肉を食すことの出来る贅沢を形容するのに
「膳に六牲を用いる」
があります。これは『周礼』天官冢宰第一の、
「和王之六食、六飲、六膳、百羞、百醤、八珍の齋」
にある、王の食事を管理する最も重要な官職「食医」でした。そのなかの膳は家畜の肉のことで、六牲とは「馬、牛、羊、豚、鶏、犬」を指し、権力者である王の食卓には必ず「六牲の肉料理」が並びました。
「養、羨」児からも羊が古代中国人の財産であったことは容易に想像出来ます。中国文化の影響を強く受けた古来日本でも肉料理は重要で、延喜七年(九〇七)に制定された「延喜式」には、重要行事や伝統儀式には宴会料理やメニューに細かな規定が設けました。そのなかの最も贅沢な料理は「七五三膳」で、本膳七菜、二の膳五菜、三の膳三菜からなり、やがて本膳料理と呼ばれる食文化を生み出しました。
日本で生まれ育った筆者などは、飽食時代と言われる現代、中国の肉料理や畜産品や西洋の三大珍味「トリュフ、キャビア、フォアグラ」よりも、徳川時代より珍重された「天下の三珍」である長崎の鱲子(からすみ)、越前の雲丹(うに)、三河の海鼠腸(このわた)などいずれ劣らぬ強烈な個性を持つ逸品に心奪われ、これぞ「お国自慢」と胸を張るのです。