作字と基本古典-1
更新日:2017年02月01日
筆者の本業である出版業の実務で、必要とする活字や字体(フォント)の対応が出来ないときに、既存の活字の一部を合成して新しい活字を作ることがよくあります。「作字」と言う作業ですが、ユニコードで検索しても対応出来ない、パソコンに内蔵・登録されていない文字を作るには文字のバランスや空間の自然さが要求されますから、「慣れ」と「技術」、そして「センス」が必要になります。中国最古の字書である「説文解字」や文字学など難解な原稿の場合、一行に何文字も作字作業を行わなければならない場合もあり、その作業には長時間を必要とします。今回は書道の世界で最も難解な作字作業を行った古典についてお話をしたいと思います。楷・行・草・篆・隷など書道技術取得の過程で、必ず通過するべき名跡は基本古典などと呼ばれています。そのなかでも基本中の基本古典としてあげられるのは「雁塔聖教序」と「集字聖教序」といえるでしょう。
まず「雁塔聖教序(慈恩寺聖教序とも)」についてお話しします。唐の高祖李淵の次子、李世民は初唐を代表する太宗文皇帝(597〜649年)で、諸芸のなかでも書法に長け、「晋祠銘」「温泉銘」「屏風書」などの作品が現在も伝えられています。「雁塔聖教序碑」は「三蔵聖教序碑」と「大唐三蔵聖教序記碑」の黒大理石両碑の総称で、時の皇帝太宗が三蔵法師こと玄奘三蔵を褒め称え、讃美するために建立したものです。万文韶が刻したこの碑は、揮毫した★(チョ)遂良の傑作と云われ、長安の慈恩寺大雁塔内に建立されました。清朝に文中の「治」の末画の欠字を補刻し、同時に「玄」の末点を削ったことで、拓本の新旧の確認はこの二字が判断基準となります。
次号では、さらに作字に莫大は時間と労力を割いて完成させた「集字聖教序」についてお話ししたいと思います。