中国古代文字である甲骨文字や 金文には「聿(いつ)」 という文字が見られますが、 これは手で筆記用具を持つ象形文字であり、のちにこれが変化して「★」となりました。新時代の蒙恬将軍[もうてん(? - 紀元前210年)]で、枯木を管に、鹿毛を柱に、羊毛を被として造った筆を始皇帝に献上したのが筆の始まりとされていましたが、1928年に戦国時代の遺跡から筆が発見され、この説は否定され、筆の発明は殷代まで遡る可能性があると考えられています。蒙恬は筆の改良者ということでしょう。
さて、みなさんは「筆の四徳」をご存知でしょうか。優れた筆には四つの特徴「尖(せん)、斉(せい)、円(えん)、健(けん)」があります。「尖」は、筆先が尖っていることをいいます。新しい筆は糊で固められているので分かりやすいのですが、使いこなした筆の場合は水などで濡らして穂先が揃うか確認した方がいいでしょう。
次は揃うを意味する「斉」で、つまんだ筆先が欠けることなく綺麗に揃うのがいいといわれています。そして丸みを意味する「円(えん)」は、筆の毛全体が丸みを帯びた形がよいといわれています。
最後に弾力を意味する「健(けん)」で、筆先を押して弾力を確認することが大切です。これら筆の四徳は筆の重要な能力を意味するものですが、作家の実力をよりレベルアップさせてくれるほど、重要な役割を持っています。逆に言えば、作家が書きたい作品に応じた筆を選び、その特性を生かして使えば名品が生まれる可能性があるということでしょう。
弘法大師・空海の漢詩文集で、死後に弟子真済が編集した「性霊集」 には、
「良工は先ず其の刀を利くす。能書は必ず好筆を用いる。刻鏤、用に随って刀を改め、臨池、字に遂って筆を易う」
と述べており、 書きたい文字や、何に書くのかによって、適切な筆を選んでいました。「能書は好筆を用ふ」、正に「弘法筆をえらぶ」です。
★…竹冠+毛(筆)