日本最古の歌集「万葉集」に、阿部郎女(あべのいらつめ)が詠んだ歌がありますが、
「火にも水にもわれなけなくに」
また、源平の合戦を描いた「平家物語」の、武将・平維盛が妻を説得する場面に、
「火の中、水の底」
という言葉があります。このような仮定表現に用いる場合の「たとえ」には、「縦え」「仮使」「仮令(けりょう)」が正しい漢字用法です。
中国では漢詩表現の形態として、事柄や思いをそのまま述べる「賦(ふ)」、比喩を用いて述べる「比(ひ)」、事物に感じて思いを述べる「興(きょう)」、民間に行われる歌謡の「風(ふう)」、宮廷で謡われる「雅」、祖先の徳をたたえる「頌(しよう)」の六種「六義」があります。この「興」が我が国に伝わり、『古今和歌集』仮名序で、思いを自然の風物になぞらえた「譬(たと)え歌」となりました。この六義にまつわる話として、江戸時代、五代将軍・徳川綱吉が川越藩主・柳沢吉保に駒込の下屋敷として与え、柳沢吉保が自ら設計して作った回遊式築山泉水庭園を「六義園」と命名しました。
完成は元禄一五年(一七〇二年)ですが、明治時代に三菱創設者の岩崎弥太郎の別邸となり、昭和一三年に東京市に寄付され一般公開されるようになりました。昭和二八年(一九五三年)に国の特別名勝に指定されましたが、六義園のシンボルと言えば枝垂桜で、高さ約一五メートル、幅約二〇メートルの大木です。染井吉野より一足早く咲く、東京に春の訪れを知らせるシンボルです。春の陽光に照り映える昼の姿と、ライトアップされて浮かび上がる夜の姿は絶景です。