封泥に関する主要文献としては、初出として『後漢書』百官志に、
「守宮令一人、六百石、本注曰、主御紙筆墨、及尚書財用諸者及封泥、丞一人」
が挙げられます。封泥研究としては呉式芬、陳介祺による『封泥攷略』が有名で、同書に収載された陳介祺蒐集の封泥は東京国立博物館蔵品となり、『中国の封泥』に紹介されています。また、江村治樹氏「東京博物館保管 陳介祺旧蔵の封泥―とくにその形式と使用方法について−」では、600余点収蔵された中国古代封泥が六つの類型に分類され紹介されています。さらに封泥の使用方法に関しては、王国維の『簡牘検署攷』、馬衡の『封泥存真』、王献唐の『叙目』などが挙げられます。
さて、1983年に出土した封泥は、当初より秦代の封泥との見方があったものの、西安の文物関係者によって否定され、正体不明のまま北京の古玩市場で売り出されたのですが、1995年夏、中国西安の西北にある畑で、今度は農民が封泥を大量発見し、うち千余枚の封泥を入手した夢齋氏が、西安の西北大学歴史博物館に調査研究を依頼しました。西北大学は、各方面の研究者による研究結果として真物と判断を下し、『西北大学学報(哲学社会科学版 1997年第一期第一巻・総94期)として発表し、ついに真贋論争に結着をつけたのです。
封泥出土の恩恵を大いに受けた芸術家は徐三庚、呉昌碩と言われていますが、彼らは自身の刻風に磚瓦や出土した新史料である封泥など諸金石の腐触の味わいを加えた斬新な作品を次々と発表し、近代印壇の風格形成に努めました。
そこでいつものことですが、封泥は元来が粘土の塊であるため偽造しやすく、贋物が出回っていますのでくれぐれもご注意くださいませ。そして是非、博物館で本物を見て作品作りのヒントにしていただければと思います。