古代中国では紙が普及する前は、公的内容を記した木簡・竹簡の束や重要物品を入れた容器などを受領者以外の者による開封を禁じる方法として、また責任の所在を示す証明書として、それらをまとめた紐の上に粘土の塊を付着させ、その上に印を押す封印方法が用いられました。
この泥の塊を封泥といいます。中国で封泥が盛んに用いられたのは秦時代(前221〜207年)、前漢時代(前206年〜後7年)、新時代(8〜23年)ですが、古代西アジアでも同様の封泥があるものの、中国の封泥の多くは自分の身分や職位を示す官印を押印してあることが多く、印章同様に研究、蒐集、鑑賞、そして篆刻の参考資料として活用されてきました。
中国で初めて封泥が出土したのは清代末期の道光年間(1821〜50)で、その後次々と出土しましたが、当初は印の鋳型だと考えられていました。古印研究の進んでいた考証学の学者や書家たちは、封泥に押印されている点に注目し、研究目的で封泥の蒐集と鑑賞、研究に力を入れました。
印文がすべて白文(陰刻)なのは封泥に押捺した印顆が見やすいためですが、独特な秦・漢印など古印の印影を確かめることの出来る封泥は、印学研究にとって非常に貴重な史料で、印譜と同じく封泥の影印を集めた出版も盛んに世に出されました。
次号では封泥研究の主要文献をご紹介するとともに、封泥真贋論争、さらに書作品の参考として封泥を取り入れた徐三庚、呉昌碩についてもお話ししたいと思います。