このような例から考えられるのは、これまでのショッピングセンターは、いかに効率よく客を呼び込むか=顧客の流れ「客流」に工夫を注いできましたが、これからはいかに客の滞在時間を長く伸ばすか「客留」が需要と考えています。今までは、ショッピングセンターの“客流”(顧客の流れ)、つまりいかにお客さんを効率よく流していくかに心を砕いてきたが、これからはむしろ“客留”、つまり顧客の滞在時間をいかに伸ばすかを工夫しています。書店のなかでイベントコーナーを行ったり、子どもたちに「体験コーナー」を設置することで人気スポットとなり、さらに土日に講座や講演、展示など、さまざまなイベントやセミナーを催して客流力と客留力を高める努力を行っています
筆者は以前、よく上海の七階建てフロア面積三〇〇〇平方メートルの大型書店「上海書城」に立ち寄っていましたが、こちらは蔵書一二万冊を超える上海最大の書店です。毎度、必ずどこかのフロアに日本の書籍特設コーナーがあります。漫画コーナーでは真っ先に「名侦探柯南(名探偵コナン)」を見つけましたが、他にも日本の名著、ヒット作品として知られる『窓ぎわのトットちゃん(黒柳徹子著)』、『雪国(川端康成著)』、『白夜行(東野圭吾著)』、『火垂るの墓(野坂昭如著)』などがありました。日本の書店は逆に「反中・嫌中本」が平積みで売られているのに、中国の書店では「反日本・嫌日本」はまず見当たりません。今年一二年連続でノーベル文学賞を逃した村上春樹は中国でも人気のある作家ですが、中国の人気若手ベストセラー作家にも強い影響を与えているそうです。村上春樹の本は一九八九年以降、中国で一三〇冊以上が翻訳されています。
中国では、扇動的な内容はメディアの検閲を通りにくい、時事的な内容は賞味期限が短い、といった問題もありますが、そもそも書籍として出版価値がないと思われるようです。そもそも書物とは学問を学ぶもので、日本の書籍は、わざわざお金を出して「買う価値がある」ということなのでしょう。日本のアニメが中国人に受け入れられるのも、中国のアニメのような道徳性を強く押し出すものではなく、また画一的な教育では得られない幅広い教養や知識を得られると考えられるからでしょうか。「中国=反日」と思われがちですが、それはごく一部の事象で文化や教育の世界では真逆と言っていいでしょう。