これより旧拓本は我が国にあり、三井高堅氏が蒐集し三井聴氷閣蔵本として三井文庫で所蔵しています。最旧拓本とされる「先鋒本」は480字が読み取れ、また不明瞭ながら500字が読み取れる最多字数の「中権本」は二玄社「原色法帖選」の定本となっています。
さらに先鋒本・中権本とともに明代の金石家・安国(1481〜1534)コレクションで、497字が読み取れる「後勁本」があります。またまた余談ですが、樋口一貴「三井高堅と聴氷閣拓本コレクションの形成『聴氷閣旧蔵碑拓名帖撰(三井文庫)』」によると、「先鋒本」は大正10年に42,000円で入手しているようですが、当時は1,000円で総檜造りの豪邸が建ったそうですから、想像を絶する天文学的破格であると指摘されています。
北宋の欧陽修『集古録跋尾』によると、当時、判読可能な文字は465字でしたが、現在では新拓本をもとに確認してみても僅か250字あまりとされています。
石鼓文は偏平な字形「大篆」と呼ばれ、また秦の通行文体である比較的縦長の字形「小篆」の祖とも呼ばれています。その特徴は書法と印章に用いる書体の両方の特徴を内包しています。書体変遷の歴史を見ると亀の甲羅、獣骨、石刻、絹、竹、そして紙に書くように、書く対象によってその特徴を合わせた書体を洗練させてきました。
書体の特徴に合わせて作品を創ることはセンス、つまり皮膚感覚であり、読者のみなさんにも大いに学んでいただきたい資料です。