蘿蔔(だいこん)-1

更新日:2022年09月01日
中国の蘿蔔農家と蘿蔔
 一昔前の話ですが、筆者が小さい頃に近所で声を張り上げながら豆腐やら竿竹やら物売りが歩く様がよく見られました。中国のみならず世界中でも同じような光景があったようですが、いずれもいつの間にか消えてしまいました。北京出身の友人に物売りについて聞いたところ、彼も子供の頃、近所を「蘿蔔(luo bo)ぇ〜」と語尾を長く引いて声を張り上げる物売りがいたそうです。
 その掛け声は見事なもので、彼はその声を聞くのを楽しみにしていたそうです。蘿蔔とは大根のことで、日本の大根のような辛さはなく、水々しい果物のような大根だそうで、喉の渇きを癒すのが目的だったそうです。そもそも中国では大根は水分補給を目的に栽培されており、中国北方では「愛好者不吃梨(大根好きは梨を食わぬ)」という諺があるほどです。
 さて、社会人になった彼が上海に行った時、街中の物売りが「老婆、老婆〜」と言う掛け声を張り上げながらやって来たそうです。「老婆」は日本ではお婆さんですが、中国語では奥さん、女房です。まさか奥さんを売っている訳がありませんし、いくら吃貨(食いしん坊)の上海人でもと思って上海人に確認したところ、「老婆」ではなく標準語と同じ発音の大根売り「蘿蔔」だと分かったそうです。ん〜、中国語は本当に難しい。
 次号では唐代の隠遁者・張果老のる蘿蔔故事をご紹介し、武則天がこよなく愛した洛陽水席の大根スープ、それが派生して生まれた「仮燕菜」、その料理が1000年の時を隔てて繋がる武則天と周恩来の話題についてお話しします。
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