今号では久しぶりに漢字についてお話ししたいと思います。漢字には正字と異体字があることはみなさんご存知かと思います。峰と峯、涙と泪、どちらもそれぞれ「みね」と「なみだ」、読みも意味も全く同じですが字形は違っています。この他にも高と、崎と嵜(たつざき)、辻と辻(点一つと二つのしんにょう)、など枚挙にいとまがありません。
漢字も言語の表記手段のひとつであるので、時代や場所によって変化してきました。一般的に日本では「康煕字典」で標準とされている漢字を正字とし、字音、意味は同じでも字形の違う漢字を異体字としています。「氷」は中国の漢字、つまり簡体字では「冰」ですが、日本ではパソコンで「こおり」と入力すると「氷」ですが、暫くスクロールすると異体字の「冰」が出てきます。
現在は一字の漢字表記は一つの書き方に統一されていますが、以前は同じ字でもいくつか異なる書き方があり、昔から複数の書き方があったとしても、たまたま日中で異なるほうを正字として採用した例として挙げられます。
明治時代以前の日本政府は正字を定めることにあまり積極的ではなく、『干禄字書』から『康熙字典』まで中国から「正字」という概念を輸入していましたが、1902年(明治35)に設置された国語調査委員会から臨時国語調査会でようやく日本独自の正字を定める動きが始まり、それらを引き継いだ国語審議会によって本格化し、1949(昭和24)年内閣告示の『当用漢字字体表』によって漸く一応の結論に至りました。余談ですが、現在、日本人の苗字に使える漢字は55,271字(戸籍統一文字)、名前に使える漢字は2,998字(常用漢字+人名用漢字)と定められています。
次号では中国から伝わったはずの漢字が、現在では微妙に違ってしまっている具体例を挙げながら、もう少し異体字についてお話ししたいと思います。