敬天齋主人の知識と遊びの部屋

敬天齋主人の知って得する中国ネタ

【西遊記】VOL.1


●朴通事諺解

 この原稿は書法研究「嚶嚶」誌に連載されている筆者の「キーワードで読む現代的書話」の加筆訂正版なのですが、創刊号から執筆させていただき8年4ヶ月でついに記念すべき100号になりました。今号では中国を代表する4つの長編小説、「水滸伝」「三国志演義」「西遊記」「金瓶梅」のなかから、全100話の小説で、テレビやアニメ、映画化されたことで多くの日本人に人気のある「西遊記」についてお話ししたいと思います。
 西遊記は、16世紀の中国・明代に大成した伝奇小説で、唐僧・三蔵法師が白馬・玉龍に乗って神通力を持った仙人・三神仙、孫悟空、猪八戒、沙悟浄をともに従え、さまざまな苦難を乗り越えながら天竺へ経を取りに行く全100回の物語です。明代・天啓年間に著された『淮安府史』によると、中国では著書に「西遊記」という記述があることから、著者は江蘇省淮安(わいあん)県出身の官吏・詩人の呉承恩(1504年頃〜1582年頃)と定説化しています。呉承恩、字は汝忠(じょちゅう)、射陽山人と号しました。ただし、現存する『西遊記』の全てに呉承恩という名は記述されていません。
 実は宋代の「金陵世コ堂版西遊記」には西遊記の原型となる「大唐三蔵取經詩話(撰者不明)」があり、ここでは三蔵が猴(猴の行者)を連れて経を取りに行く旅を書いた説話が存在していました。西遊記で現存する最古のものは元代の西遊記の逸話を収録した朝鮮の書『朴通事諺解(1677年)』によるものです。後の写本は、科挙を目指す書生たちが息抜きに作成したようで、書き写される度に内容が追加、誇張、拡張され、また、戯曲の雑劇「西遊雑劇」として上演されました。