敬天齋主人の知識と遊びの部屋

敬天齋主人の知って得する中国ネタ

【馬耳東風】VOL.1


●李白と蘇東坡(ともに肖像画)

 四字熟語といえば難解な漢字が並ぶというイメージをお持ちの方がいらっしゃると思いますが、「馬耳東風(ばじとうふう)」は、小学生でも分かる漢字が四つ並んでいます。これが、実はなかなか歴史のある故事成語です。馬耳東風の「東風」、つまり厳しい冬が過ぎ、爽やかな春風が馬の耳に吹いても、馬は何の感動もしないという意味です。ここから、馬を人に置き換え、何を言っても反応がない、または人の言うことに耳を貸さない、という風に例えられるようになりました。同義語に「馬の耳に念仏」がありますが、これは日本発祥の諺で、何と聖徳太子が言った「馬の耳に風」が変化したものとされています。
 馬耳東風の原典は盛唐を代表する詩人、李白(太白:701〜762年)の詩『答王十二寒夜独酌有懐』に見られ、「吟詩作賦北窓裏、萬言不直一杯水。世人聞此皆掉頭、有如東風射馬耳。」とあります。つまり、「珠玉の名詩名文であっても、結局は一杯の水にも値しない。世人がこの詩を聞いても、頭を振るだけで、まるで春風が馬の耳を吹き抜けるようなものだ』という意味を表しています。
 それから200年以上も後の北宋時代(960〜1127年)を代表する詩人・蘇東坡(軾:1037〜1101年)の詩『何長官に和す』に、「青山自是絶世、無人誰与為容、説向市朝公子、何殊馬耳東風」にも「馬耳東風」は見られます。この詩の最後の一節「何殊馬耳東風」に「馬耳東風」があり、若者たちに美しい景色を語っても、その価値を全く認めようともしないだろうという皮肉たっぷりに使用しています。大詩人・蘇東坡の嘆きだった「馬耳東風」の原典は李白詩にあり、蘇東坡はこれを踏まえて自分の詩の中に使ったのです。