敬天齋主人の知識と遊びの部屋

敬天齋主人の知って得する中国ネタ

【散歩逍遙】VOL.1


●海棠の花

 寒い冬を越え、薔薇科の海棠の花が咲くちょうど今頃の気候は、春の気配を感じるものの一向に止む気配のない雨降りが多いのが特徴です。これが逆に中国文人にとって詩の題材に事欠かなかった季節ともいえ、実際に多くの名詩が創り出されています。古来中国では、冬至から数えて105日目の「清明節前日」にあたるこの日は、風雨の激しい時期でもあることから、一日中、火の使用を禁じ、寒食用にあらかじめ作っておいた冷たい料理を食べる習慣があります。
 宋代の同じ頃、二度の流罪を受け、足かけ3年もの間、広州に左遷されたままだった蘇軾(東坡・1037〜1101)は、自身の不遇や悲憤に満ちた心境を表わした「寒食帖」の名詩を創っています。この名作は、親交のあった黄庭堅(山谷)の跋が付されており、短い春を惜しむ気持のこもった、現存する蘇軾唯一の真筆です。「詩書画一体」を主張した蘇軾の文人画は、当時の知識人階層の呼応を受け、それまでの中国伝統書道や絵画の価値を高める功績を残しました。
 さて、交通手段が歩くしかなかった古の時代からは、現代社会における人間の運動不足は考えられないほどの怠惰なことだと映ることでしょう。古代人は実によく歩いたようですから、ことさらに運動する必要などはなかったようです。運動と言う概念そのものがなかったかもしれません。
 ところが、現在のようにインフラが整備され、便利な乗り物が世に生み出されてしまうと、歩く機会はどんどん減ってしまい、お金を使ってスポーツクラブやジム通いする贅沢すら普通になってしまっています。
 次号、健康で平穏な毎日を過ごすため、もう少し蘇軾の教えを紐解きましょう。