【滑稽】VOL.1
● 「史記列伝」拓本
中国最初の史書・太史公遷(司馬遷)による『史記』の最後にまとめられた『史記列伝』全70巻の太史公自序に、
「世の中の凡俗さに流れず、権勢や利益を争わず、上 の者に対しても下の者に対しても凝滞することなく、 それによって人は誰からも害をうけない。それは道の 働きに似かよっている。ゆえに『滑稽列伝』第六六を 作る」
とあります。滑稽列伝は、淳于★(じゅんうこん)、優孟(ゆうもう)、優旃(ゆうせん)の三人の伝記をまとめたものです。
まず斉時代(前614〜前591)に、酒色に溺れ国政を省みなかった為政者・威王に対し、奴隷出身でありながらも巧みな弁舌で戒めた淳于★は、「三年不蜚、蜚将忠沖天(三年間飛びもしなければ鳴きもしない鳥がいる)」と謎かけをして諫めました。ここから「鳴かず飛ばず」が生まれ、将来の活躍に備えて何もしないでじっと機会を窺うことの例えになりました。次に楚の荘王時代の優孟は、楚の荘王を堂々と風刺諫言したことで知られています。
優孟は、亡くなった賢臣の孫・叔敖の衣服と冠を身につけて叔敖になりすまし、荘王を欺いたことで知られています。ここから「優孟衣冠
」という四字熟語が生まれました。そして秦時代の優旃は、笑いや冗談に諫言を込め、秦の始皇帝、そして二世胡亥を諫め、多くの人を助けたことで知られています。優孟や優旃に使われる「優」は役者・道化という意味であり、彼らは今でいう役者の意味ですから、後世になり、笑いやユーモアに富んだ様を、滑稽と表現するように転じたとされています。
次号では、滑稽の語源と、日本における滑稽本について触れておきたいと思います。
作字★…髪の「友」の部分を「几」に変えてください。
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