敬天齋主人の知識と遊びの部屋

敬天齋主人の知って得する中国ネタ

【人情奴】VOL.1


● 義理と人情にゃ重い健さん

 同じ漢字文化圏である日本と中国では、同じ表記の漢字が必ずしも同じ意味とは限らないことはみなさんもご存知だと思います。例を挙げれば、日本語の「手紙」は中国語では「トイレットペーパー」、日本語の「娘」は中国語では「母」、これらの類は初級レベルです。そこで近年、流行している「人情奴」という単語についてお話ししたいと思います。
 『広辞苑』によると、「人情」は
 (1)自然に備わる人間の愛情。いつくしみ。なさけ。
 (2)人心の自然の動き。
とあります。日本では「人情」は人間の素直な情感や、他人への思いやりという意味で、「人情家」、「人情に厚い」、「人情家」、「人情味」などと使われます。
 一方、中国では
 (1)人情。
 (2)私情、情実。
 (3)よしみ、好意。
 (4)冠婚葬祭やつきあいの贈り物。
 (5)世間のつきあい。
と説明されています。
 そこでこの「人情奴」という単語ですが、その意味は「付き合いの奴隷」や「交際費に苦しめられている」という意味になります。
 日本でも一昔前には「義理と人情はかりにかけりゃ、義理が重たいこの世の世界」なんてのがありました。任侠の世界「唐獅子牡丹」の高倉健さんは、「この世の世界」ではなく「男の世界」でした。
 そういえば、股旅映画「ひとり狼(古っ)」では「人情がなくなりゃ、この世は暗闇だ」でしたが、村田英雄の「人生劇場(さらに古っ)」では「義理がすたればこの世は闇よ」でした。
 人情がなくなればこの世は暗闇で、義理がすたればこの世は闇になるとしたら、義理と人情は対立概念になるのでしょうか。いずれにせよ、義理も人情も今ではすっかり死語となり、合理的な考えが蔓延するようになりました。
 次号では、中国では義理人情がどうなっちゃったのか、恐れずに書いてみましょう。