敬天齋主人の知識と遊びの部屋

敬天齋主人の知って得する中国ネタ

【難得糊塗】VOL.1


● 「難得糊塗」拓本

 みなさんがこの原稿を読まれる頃は卒業シーズンですね。中国では毎年6月末から7月始めが卒業シーズンですが、日本ではこの時期は、進学する人は新たな先生に、就職する人は初めて会う上司に、人生の次のステップで出会う人に、これまで積み上げた知識や経験を認めてもらう大切な時期となります。賢く生きるか、上手く立ち回るか、これから先の人生に役立つ言葉をご紹介したいところですが、浅学菲才の筆者は「難得糊塗」の詩を贈りたいと思います。
 この詩を作ったのは、清朝・揚州八怪の一人で、中国近代藝術に最も影響を与えた画家で文人の鄭板橋[鄭燮:1693年(康熙32年)〜1765年(乾隆30年)]です。
 「難得糊塗」の原文は、
  聡明難
  糊塗難
  由聡明転入糊塗更難
  放一着        
  退一歩        
  当下心安       
  非図後来福報也 
 糊塗は、「隠す、 ごまかす、間抜け」という意味ですから、「聡明は得がたし。糊塗も得がたし。聡明転じて糊塗はさらに得がたし」といったところでしょう。同様の言葉に、「大賢は大愚に似たり」があります。本当の賢人は、知識をひけらかさず、一見、愚人に見えるで人のことでしょうか。自然体で生き。賢人にも愚人にも支持される人間になりたいものです。
 清朝前期の書は、明末から流行した傅山や王鐸らによる流麗な行草書と、董其昌の書風が一世風靡した、大きな二つの潮流に分かれました。そのなかで、主流とは隔絶した世界で、モダンで斬新な書法をして名を成した人物が、朱★(八大山人)、金農(金冬心)、そして鄭板橋(鄭燮)と言えるでしょう。
 次号では、『論語』にも見られる「難得糊塗」の教えについてご紹介します。