【桃源郷】VOL.1
●この世の桃源郷
中国・東晋末から南北朝(4世紀半ば〜5世紀初)にかけて活躍した詩人、に陶淵明がいます。彼が「桃花源記」に描いた「桃源郷」は、今からおよそ一600年くらい前の話ですが、その詩、陶淵明は「桃花源記」とその序において、桃の花に囲まれた別世界を理想郷として描きました。現在では、桃花源記の詩そのものより、序文の方がよく読まれています。日本でもよく使われる「桃源郷」という言葉は、その出典が陶淵明の詩にあることを知っている人は少ないと思いますが、中国では中学二年生の国語の教科書には掲載されていて、授業では暗記させられますので広く知られています。
昔、武陵(現・湖南省常徳)にいた漁師が、谷川に沿って船で山奥まで遡って行ったところ、突如、両岸に桃の花が一面に咲き乱れる林が広がりました。桃の香りと花弁が舞う美しさに心を奪われた男は、さらに奥入り、ついに水源を探し出します。水源の山には人間一人が通り抜けられるかどうかの穴がありました。男は溺れる光に向かって奥に進むと、そこは広い平野になっていて、立派な民家、田畑、池などのある美しい風景になっています。そして異国人の装いをした人々が微笑みながら働いています。村人に歓迎された男は、ご馳走をふるまってもらい、「外界の様子」を尋ねられます。数日間、村の家々を回り、お互いの世界の情報を交換します。どうやら村人たちは秦時代の戦乱を避け、この山奥の土地を探し当てて開拓し、家族とともに外界との関わりを一切、断ち切って暮らしているようです。そしていよいよ男が「現世」に帰る日、村人と「この世の話を口外しない」約束をします。しかし、男は村人を裏切り、目印を残して帰宅し、自分が見聞きした話を役人に伝えました。役人は捜索隊を出しますが、水源も桃の林も発見できず、その後、多くの文人・学者も誰一人、見つけ出すことは出来ませんでした。
次号では、「桃源郷」についてもう少し掘り下げて書いてみたいと思います。
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