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【桃源郷】VOL.2
●武陵桃源
この地を「桃源郷」と言います。秦末期の戦乱から逃れた人々が、数百年、外界との関わりを一切、断ち切って自給自足の生活を過ごした様子が描かれた詩です。作者・陶淵明は、朝廷に仕えたものの、立身出世を諦めたのですが、彼自身、晩年は田舎で隠棲し、自給自足の生活を送りながら詩や文章などを多く残しました。俗世間になじめず、戦乱を嫌い、理想郷を求めた隠遁思想を持つ「田園詩人」の代表作家とも言えるでしょう。
道教の教えにもありますが、日本書紀にも記述がある通り、桃は不老長寿と魔よけの象徴とも言われています。それは3,000年に一度実をつけ、食べると寿命を伸ばす生命果実という伝説になりました。「西遊記」の孫悟空は、桃園管理の仕事をさぼり、桃を盗み食いしました。現代中国でも高齢者の誕生日には寿桃や桃饅頭を食べる習慣があるように、桃には俗世間とは違う仙境の世界を連想させるイメージがあるのかもしれません。
陶淵明が描いた桃源郷の世界は一体、どこなのでしょうか。桃源郷を発見した漁師は武陵の人で、武陵桃源も呼ばれることから、もし実在するのなら、世界文化遺産に登録された中国山水画のモデルとも言うべき景勝地「張家界、武陵源自然風景区」に絞られるかもしれません。しかし、あくまで詩の世界の話ですから実在するのかどうかを考えても意味がないかもしれません。
桃に関する漢詩に『史記』李将軍伝賛がありますが
桃李不言下自成蹊 桃李は言わざれども自ずから蹊(こみち)を成すです。
これが転じて、徳ある人には結果としてたくさんの人が集まるという意味ですが、自らの戒めとして紹介しておきます。
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