敬天齋主人の知識と遊びの部屋

敬天齋主人の知って得する中国ネタ

【万年筆】VOL.1

 
●他人の万年筆(左)と、岸田劉生の原稿

 この原稿が出る頃には、新入学の学生さん、新社会人のみなさんも徐々にその環境にも慣れてこられた頃だと思います。入学や就職のプレゼントとして、どんなモノをもらいましたか?
 かつて入学祝や就職祝には時計や万年筆がよく選ばれていました。 小生が子どもの頃は『学習』という学習雑誌の年間購読予約の特典である万年筆をもらうため、親にねだってキャンペーン期間中に申し込みをしたものです。当時、小生は万年筆を持つと「何か大人の仲間入り」したような、妙なステイタスや憧れを抱いていた、おませな少年でした。
 万年筆の魅力といいますと、何と言っても鉛筆やボールペンにない、ペン先が紙を滑るときの音、滑らかさに独得の感覚がありますね。しかしその反面、インクの準備、ペン先の扱いや筆圧の加減など、万年筆にはいろいろと面倒な部分があり、精神的にゆとりのある時でないと上手く使いこなせないような気がします。 そしてインクが乾くまでの時間、自分が書いた原稿をもう一度眺める、そんな文人的で知的なイメージが万年筆にはあります。
  最近いろんなファッション雑誌やメンズ雑誌のなかで、万年筆を「男性用アクセサリー」として紹介することが多くなってきました。日常生活やビジネスにおいて使われていた万年筆が、女性用のアクセサリーとよく似た価格帯だからでしょうか、文房具からアクセサリーとして扱われるようになったと感じているのは筆者だけでしょうか。
  作家の有名作家の記念館などにはよく自筆原稿が展示されていますが、筆跡はもちろん原稿用紙の使い方、そこから想像できる作家の性格など、見ていて楽しいものです。
  2000年、関西最大の書道団体が企画した「二〇世紀に輝く文化人の書」展には多くのファンが詰めかけ、憧れの有名作家が残した自筆原稿を食い入るように見ていました。小生も樋口一葉「たけくらべ」、石川啄木「雲は天才である」、高村光太郎「南瓜」、竹久夢二「待宵草」の生原稿には感動しました。また岸田劉生の書簡は、編集者への原稿遅れの言い訳とイラストがあり、ユニークな文人の一面をも図り知ることができるいい機会でした。
  次号では日本と中国の万年筆事情についてお話したいと思います。