敬天齋主人の知識と遊びの部屋
推薦の言葉

 
書法漢学研究メルマガ
メールマガジン Vol.3 2008年4月28日発行
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大阪造幣局の桜小社近くの造幣局「さくらの通り抜け」が始まった途端、大阪は連日の雨に見舞われ、ついに桜の季節は終焉を迎えました。このメルマガが届く頃にはゴールデンウィークの話題で持ちきりだと思われます。みなさんはどのように過ごされますでしょうか。
さて、年2回発行の「書法漢學研究」も、いよいよ第3号の実務にさしかかろうとしています。まだ原稿は揃っていませんが、先生方には翻訳、査読などの作業をお願いしています。7月末刊行に向け、鋭意作業を進める予定です。どうぞお楽しみにお待ちください。
【本号の内容】

〔1〕書法漢學研究会役員改選
〔2〕「書法漢學研究」第3号の内容
〔3〕新刊紹介
〔4〕ふくやま書道美術館訪問記
〔1〕書法漢學研究会役員改選

ゴールデンウィーク明けに、「書法漢學研究(年2回発行)」を発行する同会の理事改選が行われる予定です。また役員規定、会員規定、投稿規程など、本誌発展のためにいくつかの改善に向け調整予定です。
正式な発表は、次回メールマガジンでお知らせ申し上げます。

〔2〕「書法漢學研究」第3号の内容(7月末刊行予定)
【論 考】 朱 剛 「呉湖帆の書学(三)」
  萩信雄 「開通褒斜道の研究」
  菅野智明 「恵兆壬『集帖目』考―中国国家図書館蔵本を中心に―」
  大野修作 「光明皇后『杜家立成』の原書者は誰か」
【研究ノート】  大形 徹 「道教の護符の書道史的意味」(仮題)  
  池沢一郎 「与謝蕪村と『連珠詩格』について」
  松丸道雄 「米国の甲骨蒐集について」
  伊藤 滋 「書画拓本逸事」
◆読者の皆様からの、自作漢詩の投稿をお待ち申し上げています。
※執筆者およびタイトルは変更される場合があります。    

〔3〕新刊紹介
術書賦全訳註   「述書賦 全訳註」
著者:本会理事長・大野修作 
版元:勉誠出版株式会社
定価:13,335円(税込) 
本会会員特別価格:12,500円
(税込)
刊行:平成20年2月末
仕様体裁:A5判/480頁 限定300部 ケース入 

「述書賦」は竇が大暦四年(769年)に、中国古代から中近世にかけての書人、並びにそれに関わる人物、技術、商売などについて書き上げたもので、中興以前の書家について論じて賦の形で網羅した大部な書論です。これまで「述書賦」については、語彙そのものが広い領域に関する知識が必要となるため全訳注を施されたことがなく、また著者・竇に関しても事跡が不明な点が多いことから、書論の全貌を掴めない状況にありました。

書論は文学や芸術を批評するなど、それぞれに密接な関わりがあるわりに、これまであまり研究が進んできませんでした。その原因として、語彙を正確に説明する手引書がなかったことが最大の要因として考えられます。近年、中国各地で新出土資料発見が相次ぎ、過去に出版されている書論や通史する資料をそのまま信用するわけには行かず、対比検証する必要に迫られています。

そこで本書で著者が試みた手法として、25年もの歳月をかけ、一つの語彙に対して文学論、画論、その他の領域から充分な検討を重ね、様々なアプローチで紐解いています。さらに巻末に日本人読者の便を考え、五十音順(基本的に漢音読み)語彙索引と書法叢刊・芸苑綴英の図版目録索引を付したことで、実際に書蹟を確認しつつ様々な領域からの検索も可能にしています。

〔4〕ふくやま書道美術館訪問記/大野修作
呉昌碩尺牘集
呉昌碩尺牘集

ふくやま書道美術館収蔵の栗原コレクションは、これまで二度見学したことはありますが、全体でどのような収蔵なのか気になっておりました。明清の書画では世界有数の量と質を誇るコレクションであると思っていましたので、いつか見学の機会を得て、収蔵庫の中でじっくり鑑賞できることを長く切望しておりました。ところがこのたび『呉昌碩尺牘集』が上梓されると聞き、指導主事の石永甲峰さんを通して、その尺牘自体を見たいと申し込んだところ、大阪での現代書道二十人展会場で栗原先生から直接、「見に来てください」と思わぬ有難い返事を頂きました。

アートライフ社の近藤さんと日程を調節して、3月6日にお邪魔することにしたところ、偶然にもその日は「栗原先生の福山での稽古日にあたるので昼前に来て欲しい」と言うことになりました。これでコレクションを見られるだけでなく、栗原先生にも初めてじっくりお話ができる良い機会であるし、「大野先生はラッキーな人ですね」と、近藤さんからは不思議がられました。

栗原蘆水先生
栗原蘆水先生

いよいよ当日、ふくやま書道美術館に11時過ぎに着いて美術館の中を見学していますと、半時間ほどすると栗原先生が来られて、「一緒に昼食は如何ですか」と、美術館隣の中国料理「外灘」に案内されました。窓から福山城を望める絶景の場所に案内され、栗原先生社中の人たちと一緒に食事をすることになりました。

食事をしながら書画の話をするというのは極めて優雅な一時ですが、初めての人間同士の場合は、お互い緊張するものです。お客として行く私はもちろんですが、迎える栗原先生の方が、却って気を遣っていたのではないかと想像されます。といいますのも、話がとぎれるのは白けるので”つなぎ“が必要ですが、その話題なるものとして蘆水先生が持参したのは、本田蔭軒先生の「文徴明一族の墓誌銘」に関する釈読記でした。

大野氏と石永氏
大野氏と石永氏

おそらく本田蔭軒先生を知っている人は、現在の日本ではあまり多くはないと思われます。というよりほとんど知らないでしょう。蔭軒先生がどんな人なのか、蘆水先生も知りたいと思っていたのでしょうし、京都学派に連なる小生がどれほどの者か、見定めてみたいという気もあったと思われますが、「鐵齋と関係のあった人のようですね」と、話が始まりました。

本田蔭軒先生は、かつて道教学会の長老理事としてお会いしたことのある本田済先生の祖父に当たられる方と聞いていましたので、少しほっとしました。蔭軒先生は青木正児先生ととともに画家をまじえて京都で考槃社を結成したことを知っていたのです。富岡鐵齋の考え方が基本になっており、考槃社の会合には学生時代の中田勇次郎先生が事務方として詰めていたことを私は中田勇次郎先生ご本人から直接聞いて知っていたからです。ただし、蔭軒先生の名は知っていましたが、書を見るのは今回が初めてなので、「貴重なものですから影印されると良いですね」と答えましたが、おそらく図録に入る日も遠くないでしょう。

呉昌碩を見る大野氏
呉昌碩尺牘を見る大野氏
傅山 五律草書幅
傅山 五律草書幅

約一時間半の会食の後、蘆水先生はまた稽古で、我々は収蔵庫の中で、書画を参観することになりました。例の呉昌碩が沈石友に与えた尺牘を全部見ましたが、圧巻でした。ただ沈石友の方からの返事が一通もなく、『沈氏硯林』が成立するまでの情況を復元するのは、まだ時間がかかると思われました。

その他、傅山の大作、虚谷、王文治、何紹基、伊秉綬の画など一級品を、石永さんのご厚意により、直接嘗めるように拝見できましたが、間違いのないこれら一級品は、作者の息づかいを感じさせてくれるもので、観るものに生命力を吹き込むものであると改めて感じました。

約二時間の展観の後、春の展覧を見に来ることを約束して帰りの新幹線に乗り込みました。


書法漢学研究 メールマガジン Vol.3  2008年4月28日発行
【 編集・発行 】アートライフ社 http://www.artlife-sha.co.jp
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