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書法漢學研究メルマガ

メールマガジン Vol.35 2024年8月2日発行


パリオリンピック書法漢學研究メールマガジンvol.35をお送りします。
ちょうど今、フランスパリに於いて2024年オリンピック・パラリンピック競技大会が行われています。開会式は史上初のスタジアム外で、セーヌ川で行われました。これまでにないスポーツ祭典としてより多くの競技がスタジアム内だけではなく、都市中心部において行われています。フランス国内各地域では、この新しい革新的な競技の取り組みによって、フランス国内の広場、庭園、公園、スタジアム、学校の運動場、トロカデロ広場、パリ市庁舎前広場、ラ・ヴィレット公園等の観光名所などが、2024年夏のオリンピック・パラリンピックの祭典と競技会場となっています。
これから多くの日本人選手が画面を通して感動を見せてくれると信じています。
最近、またコロナ11派が流行しているようです。みなさん、手洗い、うがいをされ、くれぐれも感染にはお気を付けくださいませ。

【本号の内容】
 「書法漢學研究」第35号のご案内
 「書法漢學研究」第35号刊行に際し −中村伸夫−
 金石過眼録-4  −萩 信雄−
 近刊告知 萩信雄著「?斎蔵詔版集成」

「書法漢學研究」第35号のご案内
書法漢學研究第35号  
漢簡に見える「K色」の記載について(下) 門田 明
〈李柏文書〉と〈李柏尺牘稿〉(下)
― その二つの呼称がはからずも導出してしまった誤解
白須淨眞
敦煌及びホータン出土文書に見える『蘭亭序』の習字学習 任 占鵬
潘祖蔭旧蔵〈太基山鄭道昭題字刻石四種〉その二 中村伸夫
『停雲館帖』考 橋本吉文
民国期の影印資料 志民和儀
儒医江村専斎から曾孫日體・?純兄弟に相伝された伝中院通方筆新古今集断簡 森岡 隆
 
「書法漢學研究」第35号刊行に際し −中村伸夫−
劉江先生
劉江先生

『書法漢学研究』第35号編集後記には、出版界のみならず「漢字の国」中国が進めているスケールの大きな事業の一端について触れました。中国ではこのところ、巨大な展示スペースを使った日中両国の著名な書家による競演も行われていて、中国書法界の盛況にも目を見張るものがあります。そんな中、つい最近になって、中国美術学院で永らく教鞭を執られた書画篆刻界の重鎮の一人、劉江先生が天寿を全うされたという訃報にも接しました。沙孟海の学統を引き継ぎ、斯学の高等教育と学術の推進に貢献された先生の温顔と実直な人柄が思い出されます。

さて第35号は、研究成果の発信として、前号につづく門田氏、白須氏の論考の後半、筆者による研究ノートの後半、それに任氏、橋本氏、志民氏、森岡氏による、それぞれの専門領域にかかわる論考と研究ノートを加えて、全七編をもって構成されています。

このうちの一編、任占鵬「敦煌及びホータン出土文書に見える『蘭亭序』の習字学習」は、これまで十分な成果があげられてこなかった中国の習字史研究の分野に、小さいながらも確実な一石を投じた論考だと思います。この一文は26年前に発表された福田哲之氏の論文「トルファン出土文書に見られる王羲之習書」(『書学書道史研究』(第8回大会:1997年11月22日/淑徳大学)と併せて読むことをお薦めします。この研究領域に対する興味が倍増するはずです。

関連することとして、中国では古くから書という技芸がどのように学ばれてきたのかという考察、つまり習字の実態究明に関する研究はあまり進んでいないように思われます。事実を探求するための確かな史料に乏しい、というのが最大の理由でしょう。とくに魏晋南北朝以降、書の名人が輩出した一族では、いわゆる家学として書法の伝授が、具体的にどのように行われてきたのか、ということを知りたいわけですが、史料的制限の壁は大きいままです。

たとえば、楷書の名人として大成した欧陽詢は、若い頃から習字に熱心であったと推測されますが、果たして彼はどのようなテキストを机上に置いて、どのような筆をどのように持ち、どのような練習方法で楷書を学んでいたのかは全くの謎です。

かつての人気テレビ番組「タイムトンネル」の主人公になって、6世紀後半の中国にタイムスリップし、父の死後、その旧友で陳の尚書令になった江総にかくまわれて教育された若き欧陽詢が、習字に励んでいる書斎に入ってみたいものです。

 
 金石過眼録-4 −萩 信雄−

故宮博物院の院長であった馬衡(ばこう)は1923、4年に、河南新鄭・孟津・洛陽を実施調査し、張廷済(ちょうていさい)、陳介祺(ちんかいき)、呉大澂(ごたいちょう)、潘祖蔭(はんそいん)らの前代の名だたる金石学者たちの―それはまさしく「書斎の金石学」というべき、古い金石学の藩離を脱却して、フィールドを重視する野外考古に向かうものであった。この馬衡が「中国金石学概要」(『凡将斎金石叢稿』中華書局、1977.10所収)における金石学の対象とする器物は、「礼楽器」「度量衡」「銭幣」「符璽」「服御器」「古兵」「刻石与碑」「造像与画像」「経典諸刻与紀事諸刻」「一切建築品附刻」など広範囲多品種にのぼるので、小欄ではその名称は省略する。

呉大澂   潘祖蔭   権量銘
呉大澂   潘祖蔭   権量銘

これらの文物を研究の対象とする時、今日のような写真技術が存在しなかった当時は、器物を椎拓(ついたく)して拓本をとり、これをもとにして研究がおこなわれた。写真が普及しても、拓本は廃されることはなく、今日ではそれが美術品の一つとして、ますますその価値が高まっているのである、金石の楽しみの一大分野は、つまり拓本を玩ぶことにつながるといえる。

次にアトランダムに石刻作品を取り上げて、その拓本の新旧の鑑別法を述べようと思うが、その前に「校碑」(校)はくらべる、考えるの意)についての、重要な文献を紹介しておこう。金石学そのものは、宋代以降多くの文(国立中央研究院歴史語言研究所単刊(乙種の二、1930)を見れば、その大概が分かる。工具書の一つとして、金石に必需の書物である。「校碑」の分野は比較的に歴史が浅く、専門の著述もそう多くはない。定評のある著述は、以下の三著である。方若(ほうじゃく)・王壮弘(おうそうこう)『増補校碑随筆』(上海書画出版社、1981・7)、張彦生(ちょうひんせい)『善本碑帖録』(『考古学専刊』乙種・第19号、中華書局、1984・2)、馬子雲(ばしうん)・施安昌(しあんしょう)『碑帖鑑定』(広西師範大学出版、1993・12)(つづく)

 
 近刊告知 萩信雄著「?斎蔵詔版集成」
?斎蔵詔版集成

表紙の画像は陳介祺(?齋)蒐集の秦・詔版拓一〇種より選んだもので、弊社近刊予定の萩信雄著「?斎蔵詔版集成」に収載予定の物です。詔版はその流布が極めて少なく、恐らく我国に伝来するものは本冊のみだと思われます。刻石、虎符のような謹厳そのものの書風とは異なり、その容姿は多様で、これは鑿銘によるからです。詔版の「小篆の典型」から外れたような簡略なスタイルは、後の漢隷に連続する段階を示す貴重な遺例です。この影印を江湖に紹介したいと思います。
今、著者が釈文、注釈の原稿を執筆中で、今暫く刊行まで時間を要しますが、国内出版に類例のない貴重な出版となります。ご期待くださいませ。



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