敬天齋主人の知識と遊びの部屋


推薦の言葉

 
書法漢学研究メルマガ
メールマガジン Vol.4 2008年6月3日発行
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季節の花あじさい近畿地方の梅雨入りは平年では6月6日で、梅雨明けは7月19日 だそうです。この梅雨の語源は、この時期は湿度が高くカビ(黴:ばい)が 生えやすいことから、「黴」と同じ音の「梅雨」に転じたという説、そして、 この時期は梅の実が熟す季節であることから「梅雨」になったという説が あります。
中国では中部・南部、台湾でも梅雨はあり、「入梅(梅雨入り)」や「出梅 (梅雨明け)」という単語は通じます。雨降りは「下雨」、「細雨」、しとしと 降る雨は「毛毛雨」、カラ梅雨は「干梅」、雨量が多いと「湿梅」、「豊梅」 と言います。蒸し暑い「悶熱」だけは勘弁してもらいたいものです。
【本号の内容】

 書法漢學研究会役員改選
 「書法漢學研究」第3号の内容
 良書紹介 「易孺自用印存」
 由源社展訪問記/大野修作

 書法漢學研究会役員改選

ゴールデンウィーク明けに、「書法漢學研究(年2回発行)」を発行する同会の役員要請が行われ、 東京大学名誉教授・松丸道雄(同顧問)、大野修作理事長、埼玉大学教授 ・大橋修一、関西大学非常勤講師・陳波各氏、筑波大学教授・中村伸夫、安田女子大学教授・萩 信雄各氏、大東文化大学教授・古谷 稔氏に、出版元アートライフ社・近藤 茂の5名の理事が就任し、理事7名体制となりました。

<新しく理事に就任した5名> (五十音順 敬称略)
大橋修一 中村伸夫 萩信雄 古谷稔 近藤茂
大橋修一 中村伸夫 萩 信雄 古谷 稔 近藤 茂


 「書法漢學研究」第3号の内容(7月末刊行予定)
【論 考】 萩信雄 「開通褒斜道刻石考釈」
  朱 剛 「呉湖帆の書学(三)」
  菅野智明 「恵兆壬『集帖目』考―中国国家図書館蔵本を中心に―」
  大野修作 「光明皇后『杜家立成』の原書者は誰か」
【研究ノート】  大形 徹 「符と書道−台湾、東港鎮の符−」
  池沢一郎 「与謝蕪村と『連珠詩格』」
  伊藤 滋 「碑法帖拾遺記」
【詩吟漢詩講座】 随時募集中です。
◆読者の皆様からの、自作漢詩の投稿をお待ち申し上げています。
※執筆者およびタイトルは変更される場合があります。    


 良書紹介
易孺自用印存  

「易孺自用印存」
A4上製 オールカラー 本文216頁
ISBN978_7_5326V2376_1
日本での定価5,500円を
特別価格:3,500円(税込)
ただし、小社ストックは5冊のみです。 

「易孺自用印存」という印譜が刊行されています。昨年末、逝世66回忌を迎えた易孺の芸術を広く世に残そうと、饒宗?、高式熊、韓天衡、童衍方各氏が題簽を揮毫し、序文を劉一聞氏が書いています。

本印譜は、近代篆刻家としてあまりにも著名な易孺(1874〜1941:号・大庵)の孫にあたる易盤銘氏が主編し、上海辞書出版から刊行されたものです。易孺は日本への留学経験があることから、当時の日本の芸術家との交流も盛んにされていたようです。帰国後は、南京、北京などで美術の教壇に立ちました。

清末の大篆刻家・黄士陵の杯を受けますが、形に囚われない非常にのびのびとした印風は見る者を飽きさせません。オールカラーで紹介されているので、印材の全体写真、刻した印面、側款、印影もはっきりと確認出来ます。また、一部拡大写真なども紹介していますので、なかなか現代的なデザインですっきりまとまっています。

 

 由源社展訪問記/大野修作
述書賦全訳注
『述書賦全訳注』
尾崎会長の作品
尾崎邑鵬会長の作品

先日、5月20日の由源書道会の書展を見に行きましたが、会場を入って正面の処に、尾崎邑鵬会長の作品がありましたが、為書きに「大野修作述書賦全訳注の句」より取ったとあるのには驚きました。これまで自分の作品、と言うより訳注をしたものですので、その読み下しを題材にされるようなことはなかったからで、少し戸惑いましたが、何といっても尾崎邑鵬会長の進取の精神には脱帽しました。

しかし考えてみれば、これは大いにあって然るべきもので、これまでそうした新しいことに取り組む姿勢がなかったことの方がおかしいのです。ほとんどの書家が手頃な墨場必携などの書物に頼って、真剣に題材探しをしてこなかったのが、恐らく最大の要因でしょう。そうした姿勢では新しい書は生まれにくく、題材の言葉探しが真剣になされなければ、書の造形も甘くなります。そもそも墨場必携を持ち出して書作品を作ろうという姿勢は、日常のルーティンそのもので、真の芸術からは遠いといえるでしょう。

啓功書話
『啓功書話』

とはいっても、中国の文人にとっても、書の題材を自ら作成するときは、自作の詩を作ることが基本ですが、それはやはり大切で大変なことでありました。散文であってはいけないというか、散文は正式ではないのです(ちなみに賦は韻文です)。これを痛感したのは、現代中国を代表する書家とされる啓功先生の『論書絶句一百首』を小生が翻訳して、『詩でたどる書の流れ(二玄社刊)』を出版した関係で、北京師範大の宿舎で啓功先生にお会いしたときです。

啓功先生はその姓が愛新覚羅であるように、清朝の皇族です。建国から三百年もたつと、「もう私は滿洲語が話せません」と言っておられましたが、漢民族の高い文化を継承することの誇りを持っておられました。従って日頃、したためていた原稿は、時間を掛けて韻文、すなわち詩の形にしていたのです。

啓功先生
啓功先生

そしてそれは啓功先生に限ったことではなく、書道の基本図書の性格を知る必読書に余紹宋の『書画書録解題』がありますが、余紹宋は、此の書物はまだ途中の段階の書物であると言っています。なぜかと言いますと、それは散文で、研究ノートの域を出ていない、完全なものではないという考えがあるからです。

そもそも余紹宋は、始めは画論の蒐集整理をしていて、『画法要録』という冊記を作りました。画論を分類整理して、その要点を押さえたもので大変便利なものです。しかし本来の意識ではそれを韻文にするための研究ノートであって、いずれは「論画絶句」にするという意識が働いていました。しかしあまりに便利に良くできているので、友人が「そのままの形でよいと言われて出版した」と序文に述べています。

尾崎先生と大野氏
尾崎先生と大野氏

さらに画論を整理すると、書論も必然的に分類整理する必要に迫られてきますが、書画論を会わせた形で分類整理して図書解題したのが『書画書録解題』です。実に良くできていて、完成以後六十年、これを完全に越える書物はまだでていません。しかし、余紹宋の意識の中では、「あれは途中の段階の書物であって、韻文すなわち詩になって始めて完全になるのだと思っている」と序文に述べていますが、彼は書家、詩人であるよりは、分類を得意とする学者でありました。

今回の由源展の展示から本物の書とは何か、書の題材はいかにあるべきかを考えさせられましたが、併設して展示されていた清朝の絵画もすばらしいもので、尾崎先生は書も画も本物を見ておかねばならないという信念のようなものを持っておられるのを感じました。


書法漢学研究 メールマガジン Vol.4  2008年6月3日発行
【 編集・発行 】アートライフ社 http://www.artlife-sha.co.jp
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