敬天齋主人の知識と遊びの部屋
推薦の言葉

 
書法漢学研究メルマガ
メールマガジン Vol.9 2010年8月3日発行
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毎日酷暑が続いております。みなさんは如何お過ごしでしょうか。
連日、熱中症の話題に関する報道などを見ておりますと、他人事ですませてもいいのかという気がしてまいります。くれぐれもご自愛くださいませ。

【本号の内容】
 「書法漢學研究」第7号刊行
 【警視庁の書】参観記 −大野修作−
 書法漢學研究会新理事のご紹介
 既刊のご案内 「王鐸唐詩六首手巻」
 近刊のご案内 「逸話で綴る物語書道史」  NEW!


 「書法漢學研究」第7号を刊行しました
第7号  
【論 考】 増田知之 明末の海寧陳氏一族とその法帖刊行について
  森岡 隆 左書き書跡の淵源
【研究ノート】 松丸道雄
不折・湖南・★(くさかんむり+全)廬の三つ巴論争 ―その紹介と出典の探索― 
  成田健太郎 『太平御覧』「書」訳注稿
  金 文京 富岡鐵齋撰併書「羽倉良豐墓誌銘」について
  名児耶 明 仮名の筆致と巻筆
  大野修作 『歴代名画記』を読む
「気の用筆論」の書論から画論への浸透
【詩吟漢詩講座】 随時募集中です。
◆読者の皆様からの、自作漢詩の投稿をお待ち申し上げています。


 【警視庁の書】参観記 −大野修作−

この四月に私の大学時代の親しい友人の池田君から警視総監に就任した旨のはがきが来ました。彼は京都大学時代の同級生で、同じ書道部に属していました。池田君ははじめ私と同じ文学部に入学しましたが、二回生から法学部に転部して、四年で卒業しました。私はその後六年も大學、大学院に籍を置いていたのと違い、彼は卒業後は警察庁に入り、エリート街道を踏み外すことなく走って、遂に頂点に上り詰めたわけです。その間、三十数年間、転勤になるたびに転居通知をくれたので、私も年賀状は欠かさずやりとりしていました。しかし流石に警視総監になったわけだし、お祝いのことを考えましたが、私には色紙に漢詩を書いて送ることぐらいしか思いつかず、とりあえず漢詩を自作して、毛筆で色紙に書いて、彼の住所に送りました。その住所はそれまでとは変わっていて、後で知ったのですが、警視総監公舎でした。

(左)池田警視総監
(左)池田警視総監

すると池田君はそれにいたく感激したらしく、日本経済新聞に「交遊抄」という欄があるのだけれど、小生のことを書いても良いかと尋ねるので、どうぞご遠慮なくと答えると、5月28日の朝刊に書いてくれました。「同期を仰ぎ見る」と題して、小生と牛島君(現在第三管区海上保安本部長)の二人を仰ぎ見るという内容でしたが、ともに同級生であった小生と牛島君を、書道の先達として仰ぎ見ていたというものでした。今や泣く子も黙る警視総監ですが、小生たちのことを仰ぎ見るなどと持ち上げ、かつ小生の色紙は警視総監室に掲げてあるなどと、心憎い演出でもありましたが、元文学部出身だけに達者な文章でした。

するとその新聞を見た長野の川村龍洲先生が、警視庁には川村驥山の書が掲げてあるはずだと手紙をくださり、池田君に尋ねると確かに存在する、もし見るのであれば案内するからというので、東京出張のついでに警視総監室を訪ねました。警視庁に着くと、門前で一応誰何を受けますが、事前の予約をしてあるものであるというと、護衛のSPが出てきて、総監室に案内してくれました。

川村驥山の題額の前で
川村驥山の題額の前で

池田君とは三十年ぶりの再会でしたが、お互い年取ったものの、すぐにうち解けることが出来ました。総監室には、事前に見ておきたいと注文して置いた書が已に出してありました。西川寧の書等です。しかし川村驥山の書は大きいので大講堂に掲げてあり、午後に大講堂は使うので、午前中に見て置いてほしいと部下の係官が言うので、先ず十七階の大講堂に行きました。そこの正面には川村驥山の「春風接人、秋霜持己」(春風をもって人に接し、秋霜をもって己を持す)と大きな対聯の題額がありました。講堂の両側は歴代の総監の肖像画が陳列されており、圧倒されるような数と荘厳さでしたが、驥山の書はそれに負けない迫力のある力強いものでした。川村驥山は長崎の修行から神戸に戻り、清浦奎吾の斡旋で内閣賞勲局に勤めた経緯があり、恐らくその縁で掲げられたのでしょうが、文章も書も警察にふさわしいものでした。この対聯は佐藤一齋の『言志四録』の中の『言志後録』中の一節ですが(岩波文庫版では後半、「秋霜自粛」と作っています)、おそらく文書も書も練りに練って書いたのではないかと推察されました。

講堂から総監室に戻ると昼食が用意されており、総監と差し向かいで食事をしながら、書を題材に話をしました。已に述べた西川寧氏の書が二点、総監自身の書が一点、そして小生の色紙が一点掲げてありました。歴代、警視庁の書道担当は謙慎系の書家なので、青山杉雨の書もあるはずだと川村さんは言いましたが、現在は見あたらないと言うことで、今回は見られませんでした。西川氏のものは横額と縦書きのものでしたが、通常のものという感じがしました。警察官はやはり書がそれなりに書けなければならないという見解は総監と小生で共通していましたので、昨今の政治家が書が書けないことを遺憾なことだと嘆きつつ、何とか善処の方法も見つけなければならないと言うことで、総監室を後にしました。



 新理事就任のお知らせ

今号より新たに以下の先生方が本会理事にご就任されました。

  • 辻井義昭先生(北海道教育大学教授)
  • 富田 淳先生(東京国立博物館東洋課課長)
  • 平方精一先生(静岡大学教授)

▼本会役員(敬称略)

【編集顧問】 松丸道雄
【理  事】 ○大野修作/大橋修一/近藤 茂 /陳  波/中村伸夫/
萩 信雄/古谷 稔/辻井義昭/富田 淳/平方精一
(○印は理事長)


 既刊のご案内 「王鐸唐詩六首手巻」
王鐸唐詩六首手巻

◆前回のメールマガジンでご案内いたしました「王鐸唐詩六首手巻」が順調に売り上げを伸ばしています。もともとは長尾雨山蔵であったものが日本に入り、古くなら個人蔵だった本巻子をスタジオ撮影し、出版にした本邦初公開資料となります。

◆内容は杜甫の詩を五首、李★(斤+頁)の詩を一首、流麗な草書で巻子に書いたものです。

◆箱書、装丁、題箋など、伝世経緯の分かる箇所も掲載、そして全文原寸掲載、さらに全頁カラーにて紹介しております。

◆釈文は中国芸術研究家・鄒濤氏に、現代語訳と解説は書法漢學研究会理事長の大野修作先生に依頼しました。王鐸書法に興味のある、一人でも多くの方に、未見の新資料出版をお手元においていただきたくご案内する次第です。

【仕様体裁】A4判並製 本文28頁(全頁カラー) 定価2,000円(税別)
  ISBN978-4-9903603-4-4 C3070

 
 近刊のご案内 「逸話で綴る物語書道史」
逸話で綴る物語書道史

◆大阪市立中学校の教諭から管理職を勤めた著者(川田停雲氏)が、現場で書道史の正しい知識を分かりやすく伝えようと蓄積してきた「逸話で綴る物語書道史」を上梓しました。ある競書雑誌に毎月一回、ちょうど100号を記念して取りまとめ、加筆訂正、さらに王羲之の逸話をベースに構成し直して分かりやすくまとめています。

◆書道史上、王羲之が果たしてきた役割は果てしないですが、そのあとの時代、そして日本にも大きな影響を与えました。本書は王羲之の逸話から展開する読みやすい内容となっています。

◆また、逸話の背景を理解するために、日中年表、関係資料・図版、写真を掲載、さらに注釈によって詳しく紹介しています。

▼本書に登場する主だった人物は以下の通りです。

【仕様体裁】A5判並製 本文176頁(全頁モノクロ) 定価2,000円(税別)
  ISBN978-4-9903603-5-1 C3070  8月中旬刊行予定



書法漢学研究 メールマガジン Vol.9  2010年8月3日発行
【 編集・発行 】アートライフ社 http://www.artlife-sha.co.jp
540-0035 大阪市中央区釣鐘町1-6-6 大手前ヒルズ209
  Tel:06-6920-3480 Fax:06-6920-3481
差出人: 敬天齋主人こと近藤 茂   
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