敬天齋主人の知識と遊びの部屋
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書法漢学研究メルマガ
メールマガジン Vol.11 2011年7月20日発行
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パジャマ姿夏の風物詩   敬天齋主人

先月末、上海に行って来ました。上海の夏の風物詩といえば、パジャマ姿で出掛けるおじさん・おばさんでしょう。

上海では経済改革が始まった30年前から、パジャマ姿で外出するおじさん・おばさんが問題となっていました。一部の市民が豊かになり、パジャマを購入するゆとりが持てるようになったためで、当初、パジャマは裕福さの象徴であり、それを着て外出することは近所に自慢する意味合いもあったようです。

上海万博を控え、上海市が「市民の素養」と題したルールを制定、パジャマ姿を「非文明的な視覚公害」と呼び、市の恥だと一大キャンペーンを行い、長年の習慣をやめさせようと躍起になって取り組みました。当時、街中に「万博を通じて文明人に」といった看板が掲げられましたが、当初は「面倒臭い」や「国が服装にまで口を出すのか」という反発もあったものの、キャンペーンや報道の効果があったようです。

北京オリンピックの直前にも、上半身裸でうろうろする膀爺(裸のおじさん)撲滅キャンペーンが実施され、街中に配置された指導員が、膀爺らを見かけると「シャツを着て歩きなさい」と注意していました。相乗効果なのか、ところ構わず痰を吐く、列に並ばないといった行為もかなり減ってきて、いよいよ国際都市・北京の面目躍如という感じになってきました。

膀爺(裸のおじさん)経済成長で大躍進を遂げる中国へのやっかみを除いたとしても、裸のおじさんやパジャマ姿のおばさんはだらしなく見えてしまいます。北京政府や上海市の指導の賜物か、国際化が進むにつれて、街中を歩くはだかのおじさんやパジャマ姿のおばさんたちの姿も消えゆく文化と言えるのでしょうか。

「書法漢學研究」メールマガジンvol.11、お届けいたします。みなさんからのご意見、ご要望など、お待ち申し上げております。

【本号の内容】
 「書法漢學研究」第9号内容紹介
 沖縄での講演 −大野修作−
 筆の博覧会展−広島県熊野町・筆の里工房−


 「書法漢學研究」第9号を刊行しました
第9号  
【論 考】 蘇軾「黄州寒食詩巻」山谷題跋新解 衣若芬著
大野修作訳
【研究ノート】 王鐸と集王書碑
中村伸夫
  天心岡倉覚三と漢詩創作 川嶌一穂
  『太平御覧』「書」訳注稿3 成田健太郎
  「心学明誠舎跡」石碑 花田尊文
  日本における毛筆愛玩と蒐集
-三清書屋コレクションの史的意義-
村田隆志
【詩吟漢詩講座】 随時募集中です。
◆読者の皆様からの、自作漢詩の投稿をお待ち申し上げています。
    


 沖縄での講演 −大野修作−
沖縄で講演する筆者
沖縄で講演する筆者

三ヶ月ほど前の話になりますが、沖縄で講演してきました。依頼者は豊平峰雲氏で、あの沖縄県知事室に置いてある屏風、普天間問題などでよく放映される沖縄県知事室のあの屏風の作者です。書に関心のある方なら必ず覚えておられると思います。その豊平氏から何か講演してくれと依頼されましたので、「書の伝統と有効性」と題して講演しました。内容は王羲之崇拝が形成される頃からその崩壊現象まで、六朝の梁代から唐の中晩期までを?遂良や張懐?ら心に話をしましたが、今回の講演のも一つの目的は、王文治の書蹟を確認し、その影響を考えてみたかったからです。其れは日中書法交流史の一環として極めて面白い材料を提供してくれると判断しました。

熱心に聞き入る聴衆
熱心に聞き入る聴衆

さてその王文治(1730〜1802)ですが、字は禹卿、号は夢楼。丹徒(江蘇省)の人。12歳の頃から詩書に優れました。乾隆21年(1756)に、冊封使使者全魁と副使周煌に従って、琉球に来ているのです。その時郷里の知友は海路の危険なことを説いて止めようとしましたが、文治は「性頗る奇を好む。必ず一度海を見て、以てその胸臆を拓かん」と、まるでランボーがアフリカに渡ったように、衆議に違い、ひとたび海島に遊んで其の詩情を養おうとしたこと自ら述べています。要するに王文治は若い頃は、詩人肌の感じやすい激しやすいタイプの人間であったようですが、其れが如何にたいへんな破天荒なことであったかは、実際に冊封使の船は台風に遭い、転覆してしまい久米島に漂着します。久米島に現存する天后宮は、尚穆王の冊封のための封船が台風に遭い真謝港外で遭難し、一行二百余名が久米島島民に救助されて那覇にたどり着くことが出来た事を記念して作られたものといわれます。

王文治を鑑賞する筆者
王文治を鑑賞する筆者

これまで王文治は劉?とともに清朝の帖学派を代表する書家として捉えられるのが普通でありました。しかし王文治が詩人であり、行動の人であったことが「海天遊草」と題する琉球を詠んで自ら編んだ詩集が存在することから窺えます。沖縄に行くまで、王文治関係の資料は基本的な物しか持っていなかったのですが、今回の講演旅行で、沖縄の博物館、図書館で書跡を拝見し、並びに資料を入手することが出来ました。ことに「海天遊草」という筆写本は、これまで世間で広く紹介されることはなく、恐らくほとんど知られていないでしょうが、今回、其れが入手できましたので、近日中に琉球を詠んだ全65首の漢詩集の原文と、訳注をつけたものを紹介したいと思います。

王文治の作品
王文治の作品

これまで王文治は帖学的な流麗な書を書く人として、どちらかというと優男というイメージがありましたが、「海天遊草」を読むと、なかなか骨のある感情豊かな人間であることが見えてきます。「海天遊草」の中の一首に、冊封船は琉球に属する久米島に到着したが、台風に遭って船は破損したことを詠んだ詩があります。冊封使は詔勅と節印を捧げ持ち、久米島に上陸し、二百余人の乗客は幸い九死に一生を得ましたが、この詩からは王文治の明朗闊達久米島の役人と島民の親切さと純朴さ、また美しい風景が深く彼の心に残ったことが窺えます。また残された王文治書の題額などをみると、完全に伝統的な書で、恐らく本場中国の伝統書道の伝道者として沖縄では捉えられていたのではないか、そして江戸時代までは本土以上に沖縄は書道先進地帯であったのではないかと思われました。


 
 筆の博覧会展−広島県熊野町・筆の里工房−
逸話で綴る物語書道史

◆8/4(木)〜9/11(日) まで、広島県熊野町にある筆の里工房において「筆の博覧会展」が開催されます。 兵庫県の書家、公森仁氏が20年以上に亘って蒐集した文房四宝の一つ「三清書屋コレクション」から筆を中心に展観、中国で筆が誕生してから現在までの歴史と変遷を紹介します。

◆本展では、300本を超える三清書屋コレクションから、象牙や堆朱、玉などによる装飾筆のほか、制作した筆匠の銘や愛用した文人の名が刻まれる歴史的意義の大きな筆を展観するそうです。一堂に公開されることは初めてとなる三清書屋コレクションの名品が織りなす多種多様な筆の展示は、まるで博覧会のようなにぎやかさで、まさにタイトル通りの展覧会だと思われます。

◆文房四寶のなかで、書画の根底を支える重要な道具は「筆」だと言えるでしょう。先人たちが注いだ想いを直に感じるコトの出来る特筆すべき機会です。少し遠いのですが、 多くの書道家、愛好家にお運びいただきたい展覧会だと思います。

◆なお、本展図録は弊社が制作をいたしました。ご希望の方がいらっしゃいましたら、是非、この機会にご注文いただけましたら幸いです。

筆の博覧会展 -三清書屋コレクションを中心に-
主 催:財団法人筆の里振興事業団 中国新聞社
協 力:広島電鉄株式会社 呉信用金庫 広島県信用組合 熊野筆事業協同組合

筆の里工房
〒731-4293 広島県安芸郡熊野町中溝5-17-1
TEL:082-855-3010  FAX:082-855-3011
公式サイト:http://www.fude.or.jp/jt/index.html

【開館時間】 午前9時30分から午後5時(入館は4時30分まで)
【休館日】 毎週月曜日(祝日の場合は翌日)
【入館料】 大人:500円  小中高生:250円  幼児:無料

筆の里工房外観 展示室
筆の里工房外観と展示室(写真:筆の里工房提供)


書法漢學研究 メールマガジン Vol.11  2011年7月20日発行
【 編集・発行 】アートライフ社 http://www.artlife-sha.co.jp
540-0035 大阪市中央区釣鐘町1-6-6 大手前ヒルズ209
  Tel:06-6920-3480 Fax:06-6920-3481
差出人: 敬天齋主人こと近藤 茂   
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