敬天齋主人の知識と遊びの部屋
推薦の言葉

 
書法漢学研究メルマガ
メールマガジン Vol.12 2012年1月25日発行
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韓国篆刻学会重鎮ソウル骨董街巡り   敬天齋主人

先週、去年の初訪問から数えて6回目の韓国・ソウルを訪れて来ました。韓国篆刻学会会長、権昌倫先生と哲学博士、宋鐘寛先生との打ち合わせがメインでしたが、骨董街巡りも楽しみの一つでした。

1980年代後半、清渓川や阿?洞(アヒョンドン)周辺は大規模な土地開発が進み、その地区で営業していた骨董店は次々とソウル東部の踏十里に移転するようになりました。以降、統一新羅時代の土器から朝鮮時代の文化を代表する白磁、李朝家具を中心に、韓国・中国を中心とするアジア圏の工芸品や古美術品を扱う一大骨董街が出来ました。今は139の店舗が、家具、陶磁器、絵画、石像、雑貨など50万点を越える骨董品を展示、販売しているそうで、アンティークファンや外国人観光客など訪れる人も増えています。

踏十里古美術商店街その中心は地下鉄5号線「踏十里」駅近くにある「踏十里古美術商街2棟、5棟、6棟」、そしてここから徒歩10分の距離にある長漢坪駅近くにある松和ビルと宇成ビルにある「長安坪古美術商街」と入居しています。その内の半分以上の商店が二棟に集まっています。短時間で踏十里古美術商店街の真髄を味わいたければ、2棟から見て回ると効率的です。踏十里古美術商店街からは長安坪(チャンアンピョン)古美術商店街もあり、併せて見て回ることができます。

ソウルの骨董街といえば、仁寺洞(インサドン)や梨泰院(イテウォン)を思い浮かべる方が多いと思いますが、古美術品やアンティーク家具、雑貨などを扱う店は観光客相手の価格となっています。そのせいか、日本をはじめとした海外のバイヤーや国内外のアンティークファンは、価格の手頃さ、品揃えの多さから「踏十里古美術通り」に集まるようです。一級品、掘り出し物を見つけることは出来ませんでしたが、楽しい骨董街散策となりました。

【本号の内容】
 「書法漢學研究」第10号内容紹介
 「近畿漢詩連盟」発足について −大野修作−
 新刊のご案内 「劉石庵書李白詩詞巻」 NEW!


 「書法漢學研究」第10号を刊行しました
第10号  
【資料紹介】 方★(土篇+専)との関わり 河野通一
【論考】 何紹基蔵、唐・薛稷書『信行禅師碑』は孤本にあらず
馬承名著
中瀧孝治訳
  寧斧成の書画篆刻 大形 徹
  近衛信尹書芸術の一側面
−玉室和尚宛信尹自筆書状をめぐって−
古谷 稔
【研究ノート】 古代書学研究の巨大な構造 陳志平著
大野修作訳
  日本印人研究
−山田正平をめぐる人々とその交友(続)−
神野雄二
  元・張雨書??碑 大野修作
  訪碑漫歩(第3回)「橋本宗吉絲漢堂跡」石碑 花田尊文
【詩吟漢詩講座】 随時募集中です。
◆読者の皆様からの、自作漢詩の投稿をお待ち申し上げています。

記念すべき第10号を刊行することができました。足掛け5年の歳月を掛けて、また一度の刊行遅延をすることなく続けて来られたのは、購読者の皆様方を始め、松丸道雄顧問、書法漢學研究会理事の先生方、玉稿を賜りました著者のお陰と、心より感謝申し上げます。今後とも継続は力を胸に、地道ですが刊行を続けたいと思います。どうか温かいご支援をよろしくお願い申し上げます。

    
 「近畿漢詩連盟」発足について −大野修作−
沖縄で講演する筆者
就任の挨拶をする筆者

昨年9月23日に近畿漢詩連盟が発足しました。会長にはどういう訳か小生が選ばれることになりました。恐らく『書道美術新聞』での漢詩欄を担当していることが大きな理由かと思われますが、『書法漢學研究』にも漢詩欄を設けていますので、それらが相まって漢詩研究の拠点の一つとして認められたのだと思うと、一面うれしく、又一面重い責任をも感じています。そうなると『書法漢學研究』の漢詩欄と近畿漢詩連盟の漢詩欄にはおのずと性格の違いを明確にしなければならないと思い、本稿を書いています。

『書法漢學研究』に漢詩欄を設けたのは、現在の書家があまりに漢詩に疎いと切実に感じていたからです。漢詩を作れない、漢文が読めない、それで書を書くなんて曾ての中国では考えられないことでした。知識人、すなわち文字を書く人であることは、必然的に書が書けなければならないことを要請されていました。其れが日本に入ると、科挙と言った知識人、エリート選抜試験がありませんし、日本には仮名という書もあるので、漢文漢詩が必須のものではなくなってきました。そして現在、ほとんどの人が漢詩を作れないという事態になってしまったわけです。要するに本末転倒もはなはだしいもので、曾ての中国の知識人の目からすれば、狂っていると言える状況になってしまったわけです。書を支えるものは文字であり、その中でも漢字の持つ強さと深さは計り知れないもので、それゆえ、中華四千年というように、世界で最も長い漢字文化の歴史があるわけです。書家は漢詩が作れるべきであるという方向で、使える「墨場必携」を目指したいと思います。連盟の会報に載せた文章を以下に引用して、漢詩の効用を確認すると、

漢詩、漢文に対する素養の低下と最近の日本の国力の低下は比例しているように思えてなりません。国家のリーダーたる人が漢文漢詩の素養を欠くと言うことは、羅針盤のない航海に似ているように思えます。明治維新以後、日本は欧米に範を取ると言うことを国策にしてきましたが、明治の元勲たちにはまだ十分な漢文力がありました。それは近代化を推し進めても、漢文漢詩の広い文化を背後に持っていましたので、混乱に陥らず近代化を推進できた最大の要因と思われます。
  ところが最近の日本の政治家、学者はほとんど漢詩の素養がありません。明治維新以後、欧米、ことに太平洋戦争以後は主に米国に習って、中国文化を捨てていましたので、皮相な文化のみがはびこってしまいました。すなわちビジネスツールとしての英語文化をマスターすればそれで事足れりとする態度です。英語がビジネスツールとしてもてはやされるのは翻訳して、それほどの誤差が出ないと言うことがあります。それは別の見方をすれば浅い歴史文化しか持たないということです。漢詩はそれほど簡単ではありません。それは中華四千年の歴史を背後に持つからです。世界史上最も長い文字文化と言えます。それだけ長生きすると言うことは漢字には強靱な生命力があるからで、漢詩はその生命力を涵養するには最も優れた方法として認識されればこそ、科挙において、中心的科目として存在し続けました。隋代から清末まで約千五百年、漢詩は文化の王者として君臨してきました。それは複雑な漢字文化を運用する能力は、その人の人間力をはかる道具として最も優れているという認識があればこそです。

となるでしょうか。『書法漢學研究』の漢詩欄は、実際に漢詩が作れるようになり、書家にとって一番必要な現在の「墨場必携」、要するに使える墨場必携を提供できるような場にしたいと考えています。一方、連盟の会報は、一般的な漢詩の発表の場になってゆくでしょう。


 
 新刊のご案内 「劉石庵書李白詩詞巻」
劉石庵書李白詩詞巻

◆本書は、個人所蔵で出版履歴の無い貴重な資料を出する企画「民間に眠る名品シリーズ」の第二弾です。第一弾の「王鐸唐詩六首手巻」は重版するほどのご好評を賜りました。本書も書道界にとって有益な資料としてご評価いただけたらと思います。

◆本巻子は劉石庵(1719〜1804)が、李白の詞「憶秦蛾」「菩薩蛮」を行書風に書いたものです。上記の詞は古体詩の一種で、また作者が本当に李白であるか議論のあることから、著者・大野修作氏は「詩詞巻」としました。また、劉石庵がこうした李白の詞と伝えられるものを書いたこと自体が興味深く、自由無碍な李白に習い、広がりのある世界を新たに構築したいと願って書いたと推測しています。 記年がないため、本巻制作年代は確定できませんが、書風から、また劉石庵の経歴から考えて、恐らく中年以前の比較的若い頃の貴重な作品であること、さらに「御賜」印があることから、宮中から下賜品として臣下に与えられた名品であると言えるでしょう。

◆澳門の一大コレクター・ケ蒼梧氏旧蔵であることから、伝世の名品であると言えます。

劉石庵
清代の政治家・書家。山東省諸城生。宰相統勲の長子。名は?、字は崇如、別号に木庵・青原等。乾隆16年進士となり、翌年翰林院に入り、のち宰相となった。経・史・諸子百家の学に詳しく、詩文を能くした。また小楷と行草に長じ、書風は個性的で、濃墨を使用し、高雅な情感がある。嘉慶9年(1804)歿、86才。

【仕様体裁】A4(210×297mm) 中綴じ 本文28頁(全頁カラー) 定価2,100円(税込)
  ISBN 978-4-9903603-9-9 C3070  好評発売中!



書法漢學研究 メールマガジン Vol.12  2012年1月25日発行
【 編集・発行 】アートライフ社 http://www.artlife-sha.co.jp
540-0035 大阪市中央区釣鐘町1-6-6 大手前ヒルズ209
  Tel:06-6920-3480 Fax:06-6920-3481
差出人: 敬天齋主人こと近藤 茂   
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