敬天齋主人の知識と遊びの部屋
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書法漢学研究メルマガ
メールマガジン Vol.14 2013年3月26日発行
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日本は卒業シーズンです。学生さんは進学、もしくは社会人として人生の次のステップへと進み、新しい人と出会います。このような時に、自分がこれまで積み上げた知識や経験を、これから出会う先生や上司に認めてもらう大切な時期とも言えるでしょう。

徐悲鴻切手唐代を代表する政治家で文学者・韓愈(768〜824)の作品「雑説四首・其四」を紹介します。
  世有二伯楽  然後有二千里馬
  千里馬常有  而伯楽不二常有
  故雖レ有二名馬  祇辱二於奴隷人之手
  駢二死於槽櫪之間  不下以二千里一称上也

  名馬はいつでもいる。しかし、それを見抜く人がいるとは限らない。
  もしも名馬を見抜く人がいなければ、下働きとしてこき使われ飼い葉桶に首を並べて死ぬだけで、千里の名馬と言われないまま終わるだろう。

「千里の馬は常に有れども伯楽は常には有らず」
 伝説「千里の馬」は、一日で千里、つまり500キロメートル(一里=500m)も走る名馬です。京都から横浜くらいの距離でしょうか。伯楽とは、そんな名馬をたくさんの馬から識別する能力のある人です。
 言い換えれば、たとえ千里の馬であっても、伯楽が見出してくれなければ、普通の馬に紛れてしまうという意味で、ここから才能のある人材を見抜いて登用する人の例えに使われています。仕事で成功する人にはサポートする人が、 良い選手にはいいマネージャーが、支えになる人や裏方を大切にしなければならない金言ですよねぇ。


【本号の内容】
 民間に眠る名品シリーズ3冊の刊行にあたって−大野修作
 「書法漢學研究」第12号のご案内
 韓国(ソウル、パジュ、釜山)の印刷街−近藤茂
 民間に眠る名品シリーズ 3冊同時刊行!!
   「文徴明沈周書畫合巻」「于右任草書般若心経」「文徴明草書詩巻」

 民間に眠る名品シリーズ3冊の刊行にあたって−大野修作

 このたび、民間に眠る名品シリーズとして、『沈石田・文徴明書画合冊』、『文徴明草書詩巻』、『于右任般若心経』を刊行しました。ほぼ同時に三冊の刊行となりましたが、準備は別々で、結果的に刊行がほぼ同時期になりました。

『沈石田・文徴明書画合冊』
 内容的には、文徴明の書はよく知られていますが、劇蹟と呼べるほどのものには、なかなか出くわしません。しかし今回刊行したものは、沈石田の画と文徴明の書と言う明代中期の蘇州を代表する書画家の合冊であり、明代蘇州の文苑を代表するといえるもので、文徴明が如何に沈石田の教養を修得していったのかが分かるものです。中国の文人の成立というのは、明代中期に確立されると言われますが、それは蘇州に於いてであり、実質的に書と画と詩文が、個人の中でどのように形成されるのかが分かる名品と言えます。






文徴明沈周書畫合巻

『文徴明草書詩巻』
 そしてもう一つは、『文徴明・草書詩巻』で、文徴明58歳時の書です。中国の文人は自由であるといっても、士大夫として中央の役人の経歴をつけることがステイタスになると言うことは暗黙の了解事項です。科挙の進士の試験に落第し続けた文徴明でしたが、幸運にも56歳で、翰林待詔という中央役人のポストに就くことが出来ました。しかし翰林院というエリート集団の中では、画家出身というのは侮蔑の対象でしか無く、三年にみたずに郷里に帰ってしまいます。この草書詩巻は、58歳で郷里の蘇州に帰るときに書かれたもので、文徴明のなかでも政界のしがらみから抜け出せた最も伸びやかな書と言えます。文徴明の58歳の転機と呼べる劇蹟で、しかも此の詩巻は、文徴明の詩集の『甫田集』の成立とも関わる重要な内容です。
 この文徴明の詩画巻、草書詩巻はともに羅振玉、内藤湖南の跋があり、詩画巻の方には長尾雨山の跋もある名品中の名品と言えます。高島屋創業家の一族である飯田家所蔵品であったということもそれを裏書きします。


文徴明草書詩巻

『于右任『般若心経』』
 本巻は、于右任が民国四十二年(1953)に書いた「般若心経」で、右任の晩年の75歳の時の書です。当時、于右任は台湾に居住していました。そしてその頃は台湾と中国大陸の関係は厳しい緊張関係の中にありましたので、大陸の中華人民共和国の立場とすれば、于右任は台湾に渡った裏切り者としての扱いで、正当な評価はおろか、その存在自体も抹殺されかねない状況でした。
 国民党の重鎮として働いた于右任はほとんど一度も中国全土の完全な統一を見ることはなく、人生に於いて安逸と言えるような時間を持つことは恐らくかないませんでしたが、于右任の人生に於いては、其の書に対しては愛好者が絶えず、ことに草書はおのずと存在が重みを増すと言った状況が続きました。于右任の草書は、1927〜1939年が資料収集整理の段階であり、1940〜1955年が完善な草書の創建段階であり、本巻は平淡自然、“天人合一”の極めて高い境地に至る、成熟した“于体草書”と称さる時期の書で、台湾、大陸、日本の政治状況で振り回された于右任を振り返るのに適した名品です。

于右任草書般若心経
 
 「書法漢學研究」第12号を刊行しました
第12号  

 今号は、最近、非常に評価が高くなっている于右任について、陝西省の蒐集家で書道家の祁碩森の論考を大野修作先生に翻訳依頼しました。豊富な図版とともに非常に内容の濃いモノになっています。
 また、宮崎洋一氏による唐三大家の一人・顔真卿の人物像考察、池澤一郎氏による江戸時代の詩人・葛西因是についての論考なども興味深い内容となっています。
 多くの読者のご意見、ご感想をお聞かせ願えましたら幸甚です。

【論考】 歴史書の節略本での「顔真卿」
宮崎洋一
  歩虚詞から「古詩四帖」へ
―明代集帖の道教資料的側面―
大野修作
  中国書法史上の第二の高峰
―于右任の書法芸術簡評―     
祁碩森著
大野修作訳
  葛西因是の詩学 池澤一郎
【研究ノート】 小野鐘山 硯石講演の記録(上) 菅野裕子
  「木村蒹葭堂邸跡」石碑(前編) 花田尊文
 
 韓国(ソウル、パジュ、釜山)の印刷街 −近藤 茂−
忠武路駅周辺の印刷街
忠武路駅周辺の印刷街【拡大】

ソウル忠武路駅からほどなくの場所に、軽印刷と、それに関連した小さな工場や小店舗が路地の奥まで所狭しと密集している地域があります。

印刷は上製本、書籍、冊子、タブロイド、バンフレット類から、パッケージ、紙袋、カレンダー、封筒、名刺など、完全に分業・専業化された商店街になっていて、それぞれの工場に、専用の軽トラックやスクーターが荷台に積んだ紙を運び、出来上がった印刷物を断裁する工場や、パッケージ、段ボールなど梱包を専門とする工場に運んだりしていました。

それぞれの工場が完全に分業・専業化しているということは、発注から納品までの全工程を、きちんと把握してマネージメントする人間がいないと、完璧な商品が完成しないことを意味します。地元に密着して築き上げた人脈など、かなりのネットワークがないとおそらく印刷物が完成することは不可能でしょう。

手作業での製本
手作業での製本【拡大】
今回、「文徴明沈周書畫合巻」と「文徴明草書詩巻」の製作において、B4判変型で折本という豪華大型本であるため、日本の専門店ではコスト的に全く実現出来なかったため、韓国で手作業の丁寧な製本作業をしてもらえる工場を探しだしました。作業を委託したのは、韓国SBS放送の「生活の達人」という番組で紹介された製本工場で、感謝の意味を込めて作業スタッフを表敬訪問しました。それぞれがベテラン熟練工で、印刷納品された折帖の束を、1センチの塗り足し部分に糊付けし、次々と手際よく製本化していく過程を拝見しました。最後に表紙と裏表紙を糊付けし、カバー巻きして、ようやく本書は完成しました。

さて、この地域から成功を収めた事業家は、政府の支援を受ける形で、会社として組織化・巨大化していき、ソウルに次ぐ第二の新都市・パジュ市郊外にある出版団地という広大な敷地に終結して行きました。立派な建物に近代設備を整えた約300社の印刷会社が、一所に集まっている光景は圧巻で、他の国ではまず、見ることは出来ないでしょう。

パジュ市の印刷会社
パジュ市の印刷会社【拡大】
話を戻しますが、「文徴明沈周書畫合巻」と「文徴明草書詩巻」刊行に際し、時間的な制約があるなかで、制作コストを抑えつつ、品質の確保を図るため、製作依頼した印刷工房SHINの申東撤社長は綱渡り的な製作ライン構築と管理を行いました。詳細は申し上げられませんが、先に述べたように、分業・専業化された工場を巧みに組み合わせることでより質の高い工程を確保しつつ、それぞれのコストを上手く節約しながら製作したため、本書の価格を安く抑えることが出来ました。

国宝レベルともいうべき2本の長巻を、原色原寸で全文公開した本書によって、折本の特性でもある「広げて全部見れる」ど迫力を味わっていただきたいと思います。


 民間に眠る名品シリーズ 3冊同時刊行!!
文徴明沈周書畫合巻
文徴明沈周書畫合巻 清国墨眇亭舊蔵 羅振玉題

釈文・訓読・解説:大野修作

◆本巻は題箋に「沈文合璧」と称する通り、明代の沈周が書いた畫と文徴明の詩書の合作という珍貴資料で、跋文を含めて七メートル近い長巻です。
 題材は沈周と文徴明が支y山を遊歩した様子を、沈周が畫と五言律詩に表し、その後50年を経て文徴明が七言律詩に詠んでいます。
 しかし、沈周の畫は未完のため、清代になってから張宗蒼が雲煙を補筆し、沈周と張宗蒼の畫、それに文徴明の書という構成になっています。
 巻末には、内藤湖南、羅振玉、長尾雨山など大家が跋文を記し、さらに高島屋創業一族である飯田新七旧蔵であることからも名品のなかの名品と言えるでしょう。

【仕様体裁】 B4変形(32.5×25.7p) 折本 図版原寸オールカラー 解説部分モノクロ
定価:4,200円(税込) ISBN978-4-9906254-4-3 C3070 \4000E

于右任草書般若心経
于右任草書般若心経

釈文・訓読・解説・略年譜:大野修作

◆本巻は、中国大陸と台湾が厳しい緊張関係にあった民国42年(一九五三)、于右任が75歳のときに書いた「般若心経」で、当時、于右任はすでに台湾に居住していました。
 監察院院長という国民党の枢要地位にいたにもかかわらず、余暇を草書研究に費やしたその書風は「于体草書」と呼ばれ、万人の心を打ちました。
 中国大陸簡体字の原型といわれる于右任の「標準草書」は、草書に石刻蒐集と研究を加味したもので、于体草書は、草書の線に「勁さとしなやかさ」を加わえた于右任独特の書風に進化したものといえます。近年、その人格を含め中台問わず多くの書道愛好家が評価するように、本書は草書を学書する題材として非常に適した資料です。

【仕様体裁】 A4判並製 図版原寸・解説オールカラー
定価:1,260円(税込)  ISBN:978-4-9906254-5-0 C3070 \1200E

文徴明草書詩巻
文徴明草書詩巻  清国羅叔言舊蔵 内藤虎署

釈文・訓読・解説:大野修作

◆本巻は文徴明が自作の詩を四首、行草書で伸びやかに書いた珍貴資料です。現存する文徴明の作品を探してみても、これほど伸びやかで溌剌な書風で書かれた作品はそうもないでしょう。
 巻末に、羅振玉が「文徴明の書の筆使いは、晋唐諸家の書に倣った」こと、内藤湖南は「文徴明は晋唐時代の書の正脈を受け継いだ」と、ともに跋文で文徴明の草書を絶賛しているのも頷ける見事な筆致です。
 本巻も高島屋創業一族である飯田家旧蔵であることからも名品のなかの名品と言えます。行草書の臨書学習に非常に適した資料と言えるでしょう。

【仕様体裁】 B4変型(32.5×25.7p) 折本 図版原寸オールカラー 解説部分モノクロ
定価:5,250円(税込)  ISBN978-4-9906254-6-7 C3070 \5000E



書法漢學研究 メールマガジン Vol.14  2013年3月26日発行
【 編集・発行 】アートライフ社 http://www.artlife-sha.co.jp
540-0035 大阪市中央区釣鐘町1-6-6 大手前ヒルズ209
  Tel:06-6920-3480 Fax:06-6920-3481
差出人: 敬天齋主人こと近藤 茂   
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