謙慎書道界編 王鐸
◆先日、東京銀座画廊美術館で王鐸展が開催されましたが、これだけ規模の大きい王鐸専門の展示が見られるのは、これが最後になったかもしれません。主催者の一人である謙慎書道会の高木聖雨さんもこうしたことが出来るのはもう無いかもしれないと言っておられました。
◆最近の中国経済が日本経済を上回る規模になっている背景が、王鐸、傅山など有名書家の作品展覧に繋がっていると言えます。何故かといえば、アヘン戦争以来落ち込んでいた中国経済は、約150年にわたって多くの文物を国外に流出させました。その多くが、明治後期から大正、昭和初期の日本に流入しましたが、却ってその多くが現在、本国帰りの潮流になりつつあるということです。中国人からすれば文物回帰は本来の姿にもどることで、日本に勝利したという昔年の恨みというか宿願が達成されるという快感につながっていることも事実でしょう。香港返還の時も中国ではイギリスに対する百年の恥を雪ぐとスローガンが懸かっていました。
◆翻って日本の最近の研究は、「帖学だ、碑学だ」といった研究はひとまず片が付いたので、明治以後の日本自身について、知らないことが多すぎるということを自覚する、それに気がついて研究し出してきたようです。
◆本号の島先生の「副島蒼海の上海時代における中国文人との漢詩のやりとり」は、これまで全く扱われてこなかった領域です。小生の橋本海関の漢詩もこれまで誰も研究していません。まだ残された漢文資料が各地に手つかずに存在しますので、地道にこつこつと研究すれば、多くの新しい研究が芽生えてくると思われます。
松丸道雄先生
◆巻頭の松丸道雄先生の「青銅器の真偽と鋳造法」についての考察は極めてすぐれた考察ですが、口述筆記ということで先生は発表することを躊躇されていました。しかし、こうした創見に富んだ考察は口述の方が分かりやすいと判断しましたので、編集部の方で活字に翻刻して載せました。皆様、ご了解をお願い申し上げます。
◆漢詩講座は今回からは優秀作品に金賞を設定して、表彰することに致しました。協賛の筆墨匠店様には厚くお礼申し上げます。これを機に皆様ふるって応募されますことを期待しますし、書家は自作の詩文を書くことが基本であるという漢詩文化が定着する機会になることを希望します。
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