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書法漢学研究メルマガ
メールマガジン Vol.18 2015年1月21日発行
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富士山  書法漢學研究メールマガジン18号をお送りします。
 今日1月21日は「ライバルが手を結ぶ日」だそうです。というのも、今から149年前の1866(慶応2)年の今日、土佐の坂本竜馬らの仲介で、長州藩の木戸孝允と薩摩藩の西郷隆盛らが京都で会見し、倒幕のために薩長同盟(薩長連合)を結んだことに由来しています。現在の我が国は自民公明の連立与党政権に対する権力中枢のチェックが出来る強力なライバルとなるべき野党が見当たらない現状ですが、民主主義の大原則として国民の意思を反映されるべく、ライバルが手を結ぶ再編が待ち遠しい限りです。
 今号では、新資料紹介、珍しい写真公開など、小誌ならではの試みもありました。今後も読者のみなさまの有益な図書であるべく、努力を続けて参りたい所存です。どうかよろしくお願い申し上げます。


【本号の内容】
 「書法漢學研究」第16号のご案内
 「廬山旅遊記」 −大野修作−
 敬天齋主人雑記 
 新刊紹介 「中国書道文化史概説」

 「書法漢學研究」第16号のご案内
書法漢學研究第15号  
【論考】 通湖山摩崖刻石の分析
― 銘文の隷定及び字体・書風考察を中心として ―
川内佑毅
(大東文化大学大学院生)
【論説・資料紹介】 長尾雨山と鄭孝胥  原 肇
(近畿漢詩連盟事務局長)
  昭和初期における関西書壇の風景を顧みる
― 山本竟山が三原愛山にあてた書簡より ―
大橋成行
(泰山書道院院長)
藤田喜一郎
(郷土史家) 
  「奇士」福本雅一先生傳
― その研究姿勢と著作大要 ―(下)
大野修作
(書法史家・元京都女子大学教授)
  福本先生と詠史楽府 松野敏之
(国士舘大学専任講師)
  鹿角膠試作顛末記 綿谷 基
(株式会社呉竹相談役)
【詩吟漢詩講座】    
 
 廬山旅遊記 −大野修作−
東林寺
東林寺

16号発刊の前に、久しぶりに中国廬山に行って来ました。まずその情況から最近の中国の書道事情を見、そして今後の日本の書の進むべき道を考えたいと思います。まず廬山を代表する寺と言えば、東林寺になるでしょうが、漢詩連盟の会員と共に35年ぶりに訪ねました。以前訪れたときは、文革が終了して10年にも満たないときでしたので、荒れ果てて山門しか拝見できず、中には入れませんでした。ところが今回訪問してみますと、中は大雄寶殿が整備されているだけでなく、山上には七層塔が建立され、寺域が数倍に拡大されていました。山門の両脇には、宿舎を兼ねた大学か宗教研究所のようなところが整備されつつあって、台湾からの浄土宗関係の団体が集団で研修しているところに出くわしました。日本の浄土宗総本山知恩院の祖庭でもあります。

開元瀑布
開元瀑布

あまりの変貌ぶりに茫然としていると、ガイドが言うには、最近中国では仏教が盛んになっているとのことでした。これまでの私は「中国は儒教の国、共産党の国」であり、仏教なんて入り込めるはずはないという固定観念的意識のままに中国を眺めていましたが、いま大変革が起こっていることを感じさせられました。中国庶民が共産党の一党支配に嫌気がさし(幹部の特権意識と汚職のひどさ等)、疑問を持っており、哲学、宗教、そして書道を必要としていることが伝わってきました。

白鹿洞書院
白鹿洞書院

その廬山の東南には「錦綉谷」と「秀峰」が聳えますが、16号表紙に使ったのは「錦綉谷」です。断崖絶壁の景勝で仙人にふさわしいところです。また秀峰には数多くの碑が建てられています。そのなかでも大きな摩崖と言える形式のものが黄庭堅書「七佛偈」です。彼の郷里は江西省修水で、都の開封から廬山を通って、母の服喪のために郷里に帰ったと考えられますが、修水は南昌のすぐ北を流れる川です。地図では小さな川ですが、実際の修水はかなりの大河です。その故郷の悠々たる川の流れを見て、黄庭堅の詩が古典主義的な典拠を積み重ねる難解な詩人であり、一方で野生の力強さへの憧れを持っていたことを感ずることが出来ました。東林寺も秀峰も今回の論考には取り上げられていませんが、近い号で論ぜられることと思います。白鹿洞書院も回りましたが、現在の中国の書を根底から学問的に考える上で、貴重な場所でした。

能仁寺
能仁寺

さて今号は川内氏の隷書の論考は、未だ論究されたことのない新出土資料を扱っています。隷書の成立と展開に対する研究が新たな段階に来ていることを知らせてくれています。福本氏に対する記事は、単なる追悼録というより、日本の書論研究のあり方を根底から見直した先人の姿勢を、生涯を通して見直すことで、現在の書法研究があまりに中国の古典文献の研究から離れてしまっていることを、改めて示してくれています。

また鄭孝胥と長尾雨山の碑は京都東山山麓の風光明媚なところも文人関係の遺蹟の多いとこであることを改めて知らせてくれます。更に山本竟山の手紙は、明治・大正・昭和初期のこれまで全国的にはよく知られなかった関西書壇の情況を垣間見せてくれる貴重な資料です。今後も竟山関係の手紙は陸続と連載されることを期待したいと思います。呉竹・綿谷さんの膠の話は、製造者でないと語れない奥深い内容で、今後とも文房の世界にも、メスを入れてゆきたいと思います。


潯陽江
潯陽江
縢王閣
縢王閣

 
 敬天齋主人雑記
呉竹本社社屋
呉竹本社社屋

昨年末、創業以来、奈良墨の伝統を守り、今年111年を迎えた株式会社呉竹相談役の綿谷基氏にお会いして来ました。現在の墨の主要産地として、奈良県産は全国90パーセントのシェアを誇るそうですが、その墨質に決定的に作用するのが膠というのは書道家であれば誰しもご存知だと思います。そこで、小誌「書法漢學研究」16号には、プロの生産者として書道墨に必要な膠、とりわけ貴重な和膠の危機的現状から新たな模索を公表された内容をご紹介いただいたのですが、直接、お話ししていただく機会を得たので、今号のメルマガでご紹介したいと思います。

綿谷基相談役
綿谷基相談役

膠は、動物の皮革や骨髄から採取される、いわば「強力な糊(のり)」で、その主成分はコラーゲン(蛋白質)です。書道で使われる「固形墨」は、菜種油やゴマ油の油煙や松煙から採取した炭素末(煤:すす)に、香料、それらを膠で練り固めています。通常は牛や豚、羊、ウサギ、安価なものでは魚などから採取された膠を使いますが、高級なのは鹿やロバだそうで、とりわけ文化財や日本画など、より高度な膠を使って生成した墨を必要とするようです。



鹿角筆ペンと削りカス
鹿角筆ペンと削りカス

一般的に言う「いい墨」とは、勿論、技術を持った墨匠が丹精込めて緻密に作ったものですが、膠そのものの質が重要なのは言うまでもありません。時間が経った「古墨」とは、良質の膠の分解が進む(膠が枯れる)とともに運筆による墨の伸びがよくなり、墨色に芯や滲みなどの立体感や発墨に味わいが出てきますから、非常に珍重されるとともに、古美術品として高値取引されます。

明・羅小華「羅小華製漢玉?墨(國立故宮博物院蔵)」
明・羅小華「羅小華製漢玉?墨」
(國立故宮博物院蔵)



綿谷氏「鹿角膠試作顛末記」は、氏が台湾旅行された際、偶然見かけた「鹿茸(ろくじょう)」看板をきっかけに、過去の文献を漁り、明代墨匠・羅小華が鹿角から採取した膠で墨を作ったことを突き止めたのが始まりだそうです。鹿角の膠を墨に利用出来るのか、科学的知識を必要としながらも試行錯誤を繰り返し、ついに試作品を完成させ、知古の書道家に試してもらっているそうです。具体的な作業手順と写真を掲載し、挫折しそうになりながらもついに試作品を完成させたその姿勢は、まさに「現代の墨匠・羅小華」を見る気がいたしました。

【羅小華】
生卒年不詳。嘉靖年代(1522〜1566)の墨匠で、名は龍文、字は含章、別号を出泉とした。存命中から名高かった羅小華墨は、明王朝の高級官僚や皇族貴族階級に納められるなど人気が高く、同重量の金の3倍もの価格で取引されたと言われる。

 
 新刊紹介
  「中国書道文化史概説」
中国書道文化史概説
詳細・ご購入

播磨康泰 著

◆本書は東洋大学大学院文学研究科博士課程で学び、創玄書道会審査会員でもある著者が、中国書道史の概説を時代順に豊富な図版を用いて明快に分類、整理、分かりやすく解説したものです。

◆過去、類書はあるものの、現在、書道を学ぶ立場から学びやすくするための表現、ルビ、索引を設け、利便性の高いものとなっています。

 

【仕様体裁】 B5版 並製カバー巻 総228頁
定価:本体3,000円+税 ISBN:978-4-908077-01-2 C3570



書法漢學研究 メールマガジン Vol.18  2015年1月21日発行
【 編集・発行 】アートライフ社 http://www.artlife-sha.co.jp
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  Tel:06-6920-3480 Fax:06-6920-3481
差出人: 敬天齋主人こと近藤 茂   
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