メールマガジン Vol.20 2017年1月20日発行
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『書法漢学研究19/20合併号』発行にあたって −大野修作−
お待たせしましたが、『書法漢学研究19/20号』合併号をお届けします。19号の発行期日からは半年遅れですので、同時にお詫び申しあげなければなりませんが、しかし今号は通常の倍以上の内容(大盂鼎から現代まで)で発行できたことを編集者として喜んでおります。
まず大盂鼎の全面的な紹介を出来たことを喜びたいと思います。清朝後期になって多くの青銅器が発掘されましたが、その中でも有名な四大青銅器が、大盂鼎、大克鼎、毛公鼎、散氏盤とされますが、大盂鼎は書風の面からももっとも重厚な且つ整った書風の青銅器であります。今回本誌で紹介するのは、未剔本、剔後本のなかの未剔本の系統で、上海図書館の蔵する四件の未剔本よりはるかに字画の鮮明な拓で、且つ楊沂孫の見事な跋があります。この跋は楊沂孫の書としても見事な物で、清朝の金石学者の學書の方法を示す貴重な資料とも言えます。しかしそれを釈読するのは至難の業で、容易に近づけない世界でもありました。そこで日本の金文、篆書釈読の最高峰といわれ、二玄社の日本篆刻叢刊の釈読でも知られる林宏作先生に釈読をお願いしました。本誌に記されたいくつか奇怪な文字が目に飛び込んでくると思いますが、この釈読も段階で望みうる最高の到達点と言えますので、これを契機にさまざまな議論が深まって行くことを望みたいと思います。
また現在の中国の研究者のなかでも俊足と言うべき陳志平氏は意欲的に北宋の書学や陳淳を研究していることで知られますが、北宋書学の先駆けとなる沈遼について、菅野裕子氏に翻訳をお願いしました。また明治期の南画家・安田老山の芸術境を村田氏に紹介してもらいましたが、本邦初の紹介とも言えるでしょう。
また大倉集古館と澄懐堂美術館は日本の東西を代表する中国書画の収蔵で知られますが、大倉集古館の収蔵する、これまで詳しく紹介されたことのない晋沛国張朗碑を近藤さんに紹介してもらいました。澄懐堂はもと台湾製糖社長の山本悌二郎がコレクションしたもので、元来は東京にありましたが、戦争で四日市に疎開し、其の結果四日市の美術館として存在していますが、昭和初期の頃の書画コレクションの情況を、昭和三年の御大典を中心に井後尚久氏にスポットをあててもらいました。
長尾雨山の漢詩集の連載、安藤豊邨氏の漢詩紀行、董其昌とその時代は、伝統的な漢詩文化を中心とする論考ですが、今後ともこうした伝統の書画、漢詩文が陸続としかもきちんと研究され、書道文化の発展に繋がって行くことを念願しています。
今回は10周年記念合併号で凌ぎましたが、こうした事態が起こる背景には原稿の集まりの慢性的な不足があります。要するに中文関係の学者は書の方面では研究が少なく、書家は展覧会主義に流されて、本を読んだり学術書を読んだりして思索を深める時間がないというのが実情でしょう。しかし書は漢字、文字との格闘を通じてこそ深まるものでもありますので、今後とも書に於ける思索の場を提供しつづけて行きたいと思います。実作、思索を闘わせる場所として、書に興味を抱く人は積極的参加してくださいますようお願い申し上げます。
【本号の内容】 |
「書法漢學研究」第19/20合併号のご案内 |
未剔銹本「大盂鼎」楊柝孫跋 張效彬跋 −敬天齋主人− |
西★印社 −敬天齋主人− |
新刊紹介 「中国名家書翰選粋Ⅰ」「中国名家書翰選粋Ⅱ」 |
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