敬天齋主人の知識と遊びの部屋
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書法漢學研究メルマガ

メールマガジン Vol.24 2019年2月1日発行


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梅 今号は資料紹介が中心になっていますが、大野主幹は貴重な資料群は今後の研究を発展させる上で必要なもので、ことに江戸、明治、大正を生きた永坂石?については、これまで実像が余りよく分かっていなかった人ですが、すべてを復刻すれば、書画だけでなく、明治期の漢詩資料としても貴重な物になると話しています。
 また明治、大正、昭和と生きた実業家、南画家、書画秘帖蒐集家、蔵書家として生きた菊池惺堂の日記は、生きた近代日本書画史を考える上で、面白い示唆を与える史料と位置付けています。小生は蝸蘆美術館での講演を大幅に加筆訂正したものを紹介、花田尊文氏は体調がすぐれない中、「鯛屋貞柳墓所碑」の発表をしていただきました。


【本号の内容】
 「書法漢學研究」第24号のご案内
 「傅山展」と「顔真卿展」観覧記 −大野修作−
 閔泳翊と呉昌碩の交流 −近藤 茂−
 書籍紹介「日本書法經典名帖」「中国盗墓史稿」

「書法漢學研究」第24号のご案内
書法漢學研究第24号  
【論説・資料紹介】
井谷五雲蔵 永坂石?書画作品に見る自詠詩 井谷憲一 (釈文)
大野修作
『菊池惺堂日記』第1冊
(昭和2年11月〜昭和3年12月)
下田章平
メディアから見た在日中国藝術品の収蔵―須磨コレクションを中心に― 近藤 茂
鯛屋貞柳墓所碑 花田尊文
表紙写真:NY・メトロポリタン美術館
 
 
「傅山展」と「顔真卿展」観覧記 −大野修作−

書法漢学研究24号が発刊されました。今号は予定していた論考が間に合わないものがあり、資料紹介が中心になってしまいました。しかしその資料群は今後の研究を発展させる上で、貴重な材料になる物と半ば自負しております。ことに江戸、明治、大正を生きた永坂石?については、此まで実像が余りよく分かっていなかった人ですが、すべてを復刻すれば、書画だけでなく、明治期の漢詩の資料としても貴重な物になるものと思います。また菊池惺堂日記は、明治、大正、昭和を生きた人の日記であり、生きた近代日本の書画史を考える上で、面白い示唆を与えてくれる史料でしょう。

従いまして今号のメルマガは現在展覧中である「傅山展」と「顔真卿展」について感想を中心に述べたいと思います。まず傅山展ですが、謙慎書道会という民間の書道団体の展覧としては望みうる最高、最大規模の物と言えます。これほど優れた傅山の書蹟が一堂に、会することはありませんでした。関係者の努力に頭が下がります。現在の中国で最も評価の高い書家は傅山でしょうが、呉昌碩が文人であるのに対し、傅山は今ではより高い堯・舜のような民族英雄に祭りあげられ、よくぞ山西省から真筆を持ち出せたと感心致しました。さすが「丹楓閣記」は真蹟ではなく臨本の方でしたが、刻本との対比が可能になりました。また「傅山・傅眉合冊」には跋を趙之謙が書いていますが、謹厳な尊敬の念を込めた書で、如何に傅山を尊敬していたかがわかるもので、一般的に清朝で唱えられたとされる「帖学・碑学」などと言うとらえ方は皮相的に過ぎると思われました。一流が一流を尊敬しているのが見て取れます。

傅山展1
  傅山展2
     
傅山展3
  傅山展4

つぎに「顔真卿」展では、顔真卿の「祭姪文稿」と懐素の「自敍帖」という世界的国宝が展示されていることは多くの新聞やマスコミで報道されている通りですが、日本でしか見られない貴重な機会であり、北京では見られないものですので、中国人の参観者が多いのが特徴的でした。私が特筆しておきたいのは顔真卿周辺の、虞世南『孔子廟堂碑』(唐拓孤本)、欧陽詢『九成宮醴泉銘』(海内第一本)のような世界的国宝と言える拓本が展示されていることです。日本の三井文庫が世界に誇る収蔵品で、これほど優れた拓本は台湾や北京の故宮にもなく、帖学、というより中国書道史の出発点を支えると言えるもので、これも日本でしか、そしてめったに見られる物ではありません。啓功先生が中国にないのはおかしいと悔しがった物で、二玄社『原色法帖選』で精密な復刻がされましたが、同シリーズは小生が翻訳していましたので、その辺の事情は良く聞きました。『孔子廟堂碑』はさすがの三井家でも、購入したときは身上が傾いたと言われています。

顔真卿展1
  顔真卿展2
     
顔真卿展3
  顔真卿展4
 
 閔泳翊と呉昌碩の交流 −近藤 茂−
閔泳翊と呉昌碩の交流2

弊社刊「呉昌碩手札詩巻合刊」に、呉昌碩が「東海蘭王」と呼ばれた朝鮮人・蘭匂の逝去に際し、その妻から依頼されて書いた弔文の詩稿を掲載しています。その前半部に、呉昌碩が自ら蘭匂に三百多方印章(三〇〇以上の刻印)を贈ったと書いています。蘭匂は呉昌碩に対してかなりの経済的支援を行った人物と言えます。余談ですが詩稿は作品「行草提海隅三丐圖詩翰軸 紙本墨筆」として浙江省博物館に残っています。東海蘭匂、別称・東海蘭丐は朝鮮王朝最後の政治家で流亡貴族の閔泳翊のことです。ちなみに丐は「べん」と読み、乞食の意味があり、他に画丐、印丐なども使っています。


呉昌碩手閔泳翊札詩巻合刊

閔泳翊

閔泳翊[1860(哲宗11)〜1914]
 本貫は驪興。字は遇鴻・子相、号は芸?・竹?・園丁・千尋竹齋。朝鮮王朝末期の政治家・開化思想家・書画家。
 呉昌碩の有名な刻印の多くは閔泳翊の用印であることが判明しており、二玄社刊「中国篆刻叢刊」や黄嘗銘編「篆刻年?(真微書屋出版社)」にもその一部が掲載されています。その後、1993年、韓国篆刻学会編、東方研書會発行「缶廬刻芸?印集(權昌倫編集)」に合計241方の印影として収録されています。

缶廬刻芸?印集

權昌倫先生
權昌倫先生

今年1月、小生はソウルで權昌倫先生にお会いし、「缶廬刻芸?印集」編集の裏話などをお聞かせいただきました。これほどまとまった呉昌碩の印を掲載している書籍資料は貴重であり、日本版として出版出来ないか、今後の課題にしたいと考えています。

 
 書籍紹介 「日本書法經典名帖」「中国盗墓史稿」

 ご希望される方はメールにてお知らせくださいませ。

日本書法經典名帖(中国美術学院出版社)

著者:韓天雍編著

日本書法經典名帖

『仏教写経』定価78元 書號 / 9787550318625
『禅宗墨跡』定価78元 書號 / 9787550318632 
『三筆三蹟』定価78元 書號 / 9787550318618
 裝幀 / 各冊とも平裝16開120頁

書評:大野修作
韓天雍氏が上記三種の本を上梓されました。韓天雍氏は日本の墨迹研究で、首都師範大で博士号を取られた方ですが、すでに墨迹研究の第一人者と言えます。もともと「禅宗の墨迹」は中国では人気がありませんでした。王羲之風の伝統を具えていないという理由で軽視されていたと言えますが、それに敢然と挑戦したのが韓氏です。それを追求してゆくと鎌倉室町の書道史、さらに遡っては「仏教写経」の研究になりました。また平安の国風化の時代、「三筆三蹟」を研究の対象に加え、室町までの日本書道史がほぼ網羅されて、中国の理解の上に構築された日本書道前半史という内容に成っています。図版が良く整理されていて見やすいのも特徴です。

 
中国盗墓史稿(せせらぎ出版)

著者:岡島 政美

中国盗墓史稿

書評:近藤 茂
僕が中国語を学んでいた頃、同じ外国語学校に11歳年長の商社マンがいました。ベタベタの大阪弁のその彼はヤケに中国通で、中国各地のお墓を調査しているという、随分、変わった人だなというのが最初の印象でした。あれから20年以上経ちましたが、時々、連絡はくれていて、ついにお墓の調査結果を本にまとめるとお聞きしてから3年くらい経ったと思うのですが、14か月、8回の校正を経てついに刊行したので一冊、献本すると持参してくれました。ちょうど「書法漢學研究24号」の発送作業を終え、宅急便の集荷を待っていたタイミングで、大野先生もその内容に感心していました。

【著者紹介】
岡島 政美(おかじま まさみ)
1950年(昭和25年)、徳島生まれ。商社勤務のかたわら、90年代より訪中百数十回、あらかたの古墓を歴訪。退職後、あらためて関西大学アジア文化専修で学ぶ。
趣味は読書と中国考古学、陵墓遺跡関連の書籍収集。

【本書の紹介】
中国歴代王朝は威信をかけて膨大な財宝で埋め尽くした墓を築いてきましたが、常に墓泥棒の絶好の餌食となり、王墓の大半が盗掘され続けていました。著者がその中国盗墓史の現地調査を続けるなかで「そもそも『盗墓』という概念がおよそ日本人の想像を超えており、その動機や目的に至っては、もはや『文化』と称して十分差し支えないものであるとさえ思えた」そうです。(「あとがき」より)
その解明に情熱をかけた著者は、百数十回の訪中を重ね、あらかたの王朝古墓を歴訪、本書をまとめたのです。

【主な目次】
第1章 先秦両漢盗墓史
 第1節 中国古代喪葬習俗と殷墟の破壊
 第2節 春秋戦国至秦末盗墓史
 第3節 前漢盗墓史
 第4節 前漢末至後漢盗墓史
 第5節 後漢末至三国盗墓史
第2章 魏晋南北朝盗墓史
 第1節 魏晋南北朝盗墓史
第3章 隋唐五代十国盗墓史
 第1節 隋代盗墓史
 第2節 唐代盗墓史
 第3節 五代十国盗墓史
第4章 宋金元代盗墓史
 第1節 北宋、金盗墓史
 第2節 金、南宋盗墓史
 第3節 元代盗墓史
第5章 明清盗墓史
 第1節 明代盗墓史
 第2節 清代盗墓史
第6章 民国盗墓史
第7章 現代盗墓史
 第1節 80年代―「金持ちになるには墓をあばくに如かず」
 第2節 90年代―盗墓、猖獗す
 第3節 21世紀―盗墓狂想曲鳴り止まず
 第4節 第4次盗墓狂潮期―現代
おわりに
参考文献

A4判500頁 POD(プリント・オン・デマンド)
ISBN-10: 4884169085 価格 \4,018(本体\3,720)
KINDLE版
ISBN-13: 978-4884169084 価格 \2,812(本体\2,604)
発売日: 2019/1/11





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