敬天齋主人の知識と遊びの部屋
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書法漢學研究メルマガ

メールマガジン Vol.27 2020年11月30日発行


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大変、お待たせいたしました。書法漢學研究メールマガジン27号をお届けいたします。毎回、刊行後、ほどなくしてメールマガジンを配信して参りましたが、管理人である近藤が今夏、コロナウィルスに疾患、肺炎から重篤化し、一時は生死を彷徨うほどの状況となりましたが、二か月の入院生活で何とか回復しました。そのため、メールマガジンの発行が大幅に遅れてしまいましたことをお詫び申し上げます。
現在、体調は回復し、年明けに刊行予定の書法漢學研究28号の編集作業を行っております。どうか今後とも宜しくお願い申し上げます。

【本号の内容】
 「書法漢學研究」第27号のご案内
 「書法漢學研究」第27号刊行にあたって−大野修作−
 新刊紹介 『篆刻 鑑賞と分析のコツ』

「書法漢學研究」第27号のご案内
書法漢學研究第27号  
【論考】
孫過庭『書譜』の伝播と影響 劉瑞濤著
大野修作訳
【論説・資料紹介】
尾崎蒼石輯『??室藏古印存』評 萩 信雄
王羲之『黄庭経』を読む 大野修作
蠅頭書冊「耆儒澄鑑」に寄せて(その三) 中村伸夫
鈴木翠軒の甲種小学書方手本における用筆法について 根本 知
松井如流の制作活動−展覧会とその会場− 前川知里

大雁塔 【表紙写真】
表紙写真は西安「大雁塔」です。2001年4月に小生が文徳皇后を弔う慈恩寺境内にある大雁塔を訪ねた時のものです。当時、西安まだ長閑な田舎で、ついに大唐三蔵聖教序を見た感激が今でも忘れられません。

 
「書法漢研究」第27号刊行にあたって−大野修作−

メルマガ27号をお送りします。
本号の論考には、劉瑞濤氏の「孫過庭『書譜』の伝播と影響」を掲載しました。本論考は普段当たり前に、『書譜』は完結した一つの論文として見なされていますが、改めて検討すると訂正、改字などの痕跡がたくさん存在するのであり、試行錯誤の結果、今日の姿に定着したことを論証する物です。これまで孫過庭はほとんど単独で行動していたかのような誤解を受けていますが、友人、弟子にも囲まれていたのであり、中でも陳子昂との関わりは積極的に評価されて良い着眼点と思われます。また「巻上」としか書かれていない原行本の問題も、日本に伝わる空海筆の草書本を検討すれば、試行錯誤、検討の結果であることが判明します。

?璽室蔵古印存1

つぎに萩信雄氏による尾崎蒼石輯『?璽室蔵古印存』の書評は、単なる書評の域を超えた論考と言って良い内容の濃さを誇ります。印譜は大きく分けて、秦漢古銅印を集成した物、二つ目は元明清の諸名家の刻印を集成した物の二種に分けられますが、該書は前者ですが、尾崎蒼石氏が30年以上にわたってツ印、集成された物で、一帙八冊の線裝康熙綴原ツ本です。戦国官璽印17方、秦官印5方、漢官印46方、新莽官印1方、三国魏官印4方、魏晋南北朝官印36方をはじめ、断代、排列を概観すると、戦国から魏晋南北朝に至る印章を、歴代の古銅印譜の穏当な体裁に倣って、それぞれの時代の官印、私印、成語印、図形印の順で排列していますが、見事な排列であり、貴重な品々です。そして萩氏の論評は単なる解説を超え、真贋を見分ける優れた鑑定眼によって支えられています。さらに確かな東洋史学者としての正確な文献把握ができていて、現代日本においてはこれ以上無い確かな書評と言えます。

?璽室蔵古印存2   ?璽室蔵古印存3

大野修作による「王羲之『黄庭経』を読む」は、基本は『黄庭経』本文の訳注ですが、これまで踏み込んで訳注されてこなかった理由を説明しようとする姿勢が濃厚です。それはこれまで中国を含め、日本の書家も黄庭経などは、「楽毅論」などとともに、たまに臨書する程度で、真面目に読んだ人はいなかったという歴史に光を当てています。なぜ読まれなかったかというと、やはり解読には困難をともなうということです。則ち道教への理解が無いと解読できません。人体の名前も現在の内科、外科の構造部位の把握との違いを明確にしないと先に進めませんが、最近の道教医学の研究の進歩は、本訳註に当たって大いに役立ちました。王羲之が熱心にこれを書いたであろうことは想像に難くないし、?遂良や顔真卿も黄庭経や麻姑仙壇記をはじめとする道教経典を熱心に臨書したであろうことが明確になってきました。




 新刊紹介 『篆刻 鑑賞と分析のコツ』
篆刻 鑑賞と分析のコツ

東京都在住で篆刻界若手ホープとして注目されている川内伯豊氏が『思い通りに印を刻る 篆刻上達のコツ(平成27年)』に続く自身、二冊目となる著書『篆刻 鑑賞と分析のコツ』を続編として刊行しました。

本書は篆刻の鑑賞と分析を主題とし、4つの章にそれぞれコツとして1頁、分かりやすく解説が付されています。

 第1章 鑑賞のポイントを整理する コツ1〜コツ19
 第2章 古印の世界に親しむ コツ20〜コツ42
 第3章 日本歴代の古印・篆刻の鑑賞 コツ43〜コツ56
 第4章 印に込められた思想や背景 コツ57〜コツ63

若くして二冊目の著書出版は本人は僭越と謙遜しておりますが、書道専攻から中国留学で見分を広め、帰国後は博士号を取得、大学専任講師という輝かしい経歴を持つ彼から決して僭越ではなく、素晴らしい研究成果であると思います。本書が篆刻を志す多くの助となりますようお祈り申し上げます。

『篆刻 鑑賞と分析のコツ』
 著者:川内伯豊
 メイツ出版 定価2,500円(税別)
 B5判並製 オールカラー 総112頁
 ISBNコード 9784780423389



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