敬天齋主人の知識と遊びの部屋
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書法漢學研究メルマガ

メールマガジン Vol.30 2022年1月28日発行


「書法漢學研究」30号、メールマガジンをお届けします。今号は通常より多くの著者からの投稿をいただきました。
30号、15周年という記念号を迎え、新たな16年をスタート、さらなる邁進をしたいと考えております。
読者の皆様方にはこれまで以上のご指導、ご鞭撻を賜りますよう、お願い申し上げます。

【本号の内容】
 「書法漢學研究」第30号のご案内
 30号記念号によせて−大野修作−
 金石過眼録一 −萩 信雄−
 展覧会ご案内 −近藤 茂−

「書法漢學研究」30号のご案内
書法漢學研究第30号  
新・李?論 大野修作
閣帖前史考述一 萩 信雄
明代『学山堂印譜』の篆刻について 高畑常信
良寛筆「維馨尼宛書状」における意図的誤字についての一考察 根本 知
漢詩で綴る新出土碑刻紀行 安藤豊邨
勝田館田中喜平 ― 民国書法 上 明
款識百例一 和中繁明

呉昌碩手冊手巻合刊 【表紙写真】
アートライフ社刊林宏作著「呉昌碩手冊手巻合刊(2016.4)」より、呉昌碩が何汝穆(?〜一九二一) に宛てた尺牘(書簡)を取り上げました。本書の編集最中、著者の林宏作先生から、「この尺牘の内容は純筆料(潤洋三元)が余りにも安く、仲介の骨董屋は信用出来ないと怒りの感情が筆致に現れていて面白いね」とご指導をいただきました。


尺牘
【釈文】
熙伯兄青覽,金心蘭謂日前
蘇九華持尊札並潤洋三元
屬畫。唯信中参字係改
過,是否。 大筆改,抑九華
店中人改,望速示明,畫
固無不可也,疑經手人不直
截耳。 缶留字。

尺牘はその書人の時代背景やプライベート、平素の書風や感情などが書風に現れる面白さがあります。

 
 30号記念号によせて −大野修作−

書法漢学研究30号をお送りします。記念号ですのでイヴェントも考えましたが、コロナ禍でもあり、書論の中身の検討に軸足を移しました。人の行き来も少なくなって、海外の生の情報が限られていますので、今こそ腰の据わった検討をすべきと考えたのです。そもそも中国の書論は中唐の後、書斷、述書賦、続書斷以後、しばらく書の枠組み的な書論は現れません。題跋・鑑賞記、収蔵記、書畫録など大部な書物があらわされますが、王世貞『古今法書苑』や清朝康熙帝による「佩文齋書畫譜」などに象徴されるように明清代は網羅性には熱心でありますが、枠組みを検証しようとする傾向は希薄です。検証しようとする姿勢が希薄ですので間違いが多く混入します。玉石混淆のまま民国の余紹宗『書畫書録解題』まで待たなければなりませんでした。余氏がこの書を書いた熱意ははんぱではなく、書論のみならず畫論も全部読み込んで、一から出直すと言う方法で、不明確な部分は抽出して保留としておき、後に発見した文章と比べ合わせて整合させるという前代未聞の力業で解題を書いています。現在に於いても必要な力技です。

ところで「書道」という言葉は、いかにも和製漢語のように思われています。日本では茶道や華道、柔道といった、子弟の間に伝授される伝統的な芸術とされ、哲学的、道徳的な意味が強調される言葉のように捉えられています。確かにそうした面はありますが、「書道」という言葉はれっきとした漢語であり、唐以前及び唐代の書論でしばしば用いられる言葉です。張懐?の『書議』に「文章発揮して、書道尚ばる」とか、「猛獣・・神彩各おの異なる、書の道は此に法とる」というように、「書道」という言葉は、現在の中国語の書法とほぼ同じ意味で使われています。「道」が「技」と対比して用いられたり、ことさら倫理的な意味合いを強調されてもいません。しかし書が芸術として意識され、批評の対象となったと言うことは、書は単なる文字符号ではなく、人間の崇高なる営為の所産として意識されていたといえるでしょう。そうした流れを知って、張彦遠は『法書要録』をまとめましたが、個人の著作にまで仕立てられなかったところに、書道と書論の奥深さがあるのかもしれません。中唐という行書風の碑が流行する現実があっても其れをまともに評価できませんでした。

さて明代は書論の網羅性が求められた時代と書きましたが、玉石混淆で、書の枠組みというものがなかなか成立しませんでした.その意味で清朝になって阮元が『南北書派論』『北碑南帖論』を書き上げたのは画期的なことでありました。書に南北の違いがあり、南朝を代表するのが王羲之であり、それに対抗するものとして、北碑的な野生あふれる書の存在が系譜化され、新しい価値基準となりました。「碑学」という言葉の誕生とともに、王羲之的なものの対抗軸として碑学がその位置につき、顔真卿が対抗軸として祭り上げたのが、神田喜一郎編の『書道全集』ですし、榮宝齋の『中国書法全集』です。しかし顔真卿を研究して行くと、かれは王羲之の対抗軸と言うより、晉で成立した書の伝統を唐代に再興したという方面が強いことがわかってきました。せっかくの李?の新しい挑戦も埋没してしまいます。宋代になると書は文人世界のスナップ写真化、題跋という方向に舵を切るように思われます。個人の題跋ですから、枠組みよりも「個性」を大事にします。しかしながら個性を大事にすると言っても、なかなか個性は引き出せ得るものではありません。清朝になって碑学派も蓄積を加え、歴史と伝統を背負うようになって、重厚に華麗な表現が可能になってきます。呉?齋、趙之謙、何紹基、呉昌碩などそれぞれが詩・書・畫の伝統を踏まえ総合芸術家の成果をしめします。現在はそれらの精華を如何に乗り越えられるかの試練の時代といいかもしれません。そうした中にあっては、縦の線、横の線を解体して最も新しい銓を書いた人として私は何紹基が最も先進的であると評価します。その証拠に彼の追随者は多いですが、誰も彼を超えていません。いわゆる逆入平出といった筆法の技量だけでは彼は超えられません。何紹基以前に誰がそうした新しい試みをしたかというと、中唐の李?が最も傑出していたと思われます。中唐という時代に伝統に反して「行書」で碑を書くという挑戦をした人、その行書も歪でゆがんでおり、縦線、横線が解体され、かなり意図的にデフォルメをした試みた企みと挑戦的精神は、先進的すぎて、これまできちっとその書道史的枠組みを捉え、其の精華と欠落についてはきちんと論評されてきませんでした。いまこそ改めて評価されてしかるべきと思います。そこで思い当たるのが、渓とその周辺に彫られた摩崖があります。宋の四大家の中で、後世、今回問題にしたいのは王羲之の枠組みの中から如何に自由になれているかです。米?・蔡譲は王羲之の直系であると言っても過言ではないし、言葉使いで自由であり得たのは蘇東坡であるが、彼は書そのものにはそれほど強いこだわりはありません。書の線と言葉にこだわったのは徹底して黄山谷であるとされますし、其の追随者も現れます。そうした詩に賛同し、体現できるものとして、強く存在できる芸術として自立できることを祈念しつつ、追随する書家も現れました。何紹基と呉大徴です。最近『渓碑刻』第2巻を入手したのですが、何紹基と呉大徴の書が数点新しく発見されていました。完全なる次韻詩です。其の黄山谷への傾倒ぶりがあきらかに感得できます。恐らく李?を次ぐ人としては、何紹基を想定するのも間違っていないと思われますが、彼については表現が余りに新しすぎて、伝統的枠組みでは批評が追いつかなかったと思えます。まず李?再評価をきっかけに書道史が書き換えられることを希望します。それによって書道に新しい命が吹き込まれ、新時代の精神の羅針盤的役割を果たすことを願って30号記念号の巻頭の言とします。新理事も力作をお寄せくださっています。

 
 金石過眼録一 −萩 信雄−
西夏1
西夏2

掲出の図版は、西夏(1032?1227)の官印の印景である。印文の意は「首領」で「官員」を意味する。もう30年も前になろうか、筆者が北京滞在中、収蔵家の楊廣泰氏に譲ってもらった印で、その頃はとても廉価であった。西夏の官印を集成した印譜(石印本)に、羅振玉の『西夏官印集存』(民国16年・1927)があって、これには33方を収録する。

ニコライ・ネフスキー(タングートスカヤ・フィロロギヤー、上下2冊・モスクワ、1960)・西田龍雄(西夏語の研究、上下2冊、昭和39年)氏らにより、大半は解読されている。筆者の学生時代からの知人にM氏がいて、西夏学一筋であった。このような分野は、愚直で偏屈な人物でしか根気が続かない。近々30数年ぶりで会うことになるが、印背の西夏文字を読んでもらうのが楽しみだ。

 
 展覧会ご案内 −近藤 茂−

もぐら庵展弊社が企画しました展覧会が開催中です。ご存じ、遊びの印(ハンコ)で独自の世界を展開するもぐら庵こと池田耕治氏の個展です。今から22年前に弊社が企画した王荊龍氏の個展「可愛的おじぞうさん」でお二人は初対面したのですが、最近、その王氏が画廊をオープンしたので、そこにもぐら庵氏をお連れし、是非、?落とし展をしませんかとお誘いしたのがきっかけです。もぐら庵氏は時おり「書斎展」を行っておりますが、王氏の画廊を気に入られ、やりましょうとなった次第です。

コロナ禍で開催が危ぶまれましたが、マスク着用を必須とし、画廊には消毒液、飛沫防止のパーテ−ションを設置、さらにフィジカルディスタンスの確保を心掛けました。それでも不安視した方の予約取り消しはあったものの、もぐら庵氏の弟子、旧友、ファン、さらにはDMやSNSを見たという来場者のお陰でまずまずの成功を収めています。月末30日までの開催となっておりますので、お時間の許される方は是非、お運びくださいませ。

●遊び印もぐら庵「こけら落とし展」●
企画:有限会社アートライフ社
2022年1月15日(土)〜30日(日)
AM10:00〜PM6:00(最終日はPM5:00まで)
ギャラリー天満
530-0041 大阪市北区天神橋2丁目4-1 中山ビル2F
天満天神繁盛亭の斜め前です。

印譜◇もぐら庵「遊びの印譜」9〜14集
絶賛発売中!

作品集に収められた依頼印などが製作された経緯、創作意図などを非常にユニークな文章でまとめた自費出版集。過去1〜8集まではすでに完売しており、残り分も在庫のみです。ご希望の方はアートライフ社までメール、またはFAXにてお申し込みくださいませ。
もぐら庵「遊びの印譜」9〜14集
各1,300円 6冊セットでのお申し込みの方は特別価格7,000円
【お申込み】
メール info@artlife-sha.co.jp
FAX 06-6920-3481

第9集 第10集
第11集 第12集
第13集 第14集
 
 


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