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書法漢學研究メルマガ

メールマガジン Vol.31 2022年8月4日発行


毎日、災害ともいえるほどの夏日が続いています。熱中症で搬送される方も多く、連日、報道で見聞きしていますが、皆様はいかがお過ごしでしょうか。くれぐれもご自愛くださいませ。書法漢學研究メールマガジンvol.31号をお届けいたします。

【本号の内容】
 「書法漢學研究」第31号のご案内
 「日本の書」展参観記 −大野修作−
 金石過眼録ニ −萩 信雄−
 萩信雄氏講演「中国の古銅印と印譜」 −近藤 茂−
 新刊紹介  『一からの書道』

「書法漢學研究」第31号のご案内
書法漢學研究第31号  
敦煌一?樹烽隧出土漢代簡
 (08dh?3簡)釈文補考
門田 明
金翻刻『大観帖』考について 橋本吉文
「呉炳本」蘭亭序 浅説 志民和儀
河井?廬の渡華と人的交流
−?廬自筆「訪中日記」を中心に−
川内佑毅
蝸廬美術館蔵・楊守敬書行書詩一二屏 大野修作
明清の篆書題簽
『故宮博物院蔵碑帖拓本篆書題簽考述』 
王建濤著
大野修作訳
款識百例ニ 和中繁明
呉大徴尺牘の図版部分
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【表紙写真】
呉大徴書君表宛書簡 釈文/林 宏作 文/近藤 茂
表紙の写真は弊社刊「中国名家書翰選粋粹Ⅱ」112頁、呉大徴(1835〜1902)尺牘の図版部分です。前号の表紙では呉昌碩の尺牘を取り上げました。人に見せる作品ではなく、普段の書が見られる尺牘は非常に面白いものです。

【釈文】
留白?試服之,以紅?二
斤奉贈,似較?鋪所購枝
頭略大。乞即哂存。手?,敬 頌
侍福 如兄制?大澂頓首。
白門之行已定,初六?登舟,七夕泊無錫,并聞。七月初二。

呉大徴
本名は「大淳」ですが、清・同治帝の名「載淳」を避諱して「大澂」に改めました。字は止敬または清卿、号は恒軒または?斎。清末の金石学者、書画家、若くして金石拓本を好み、説文解字に没頭し、篆文、金石に関する膨大な著述を表しました。書は陳碩甫に篆書を学び、李陽冰に書法を学びましだ。画は山水・花卉を善くし、その後楊沂孫の影響を受け、金文と小篆を組み合わせて一家を成し、子弟教育、難民救済にも乗り出しました。

この紙箋は他にも数枚使用しているのですが、どうやら同時代の文人・楊?がオリジナル製作した紙箋であり、その証拠を挙げると、紙箋左下の「藐」が楊?の号であるがその根拠です。楊?(1819〜1896)は清代後期、浙江帰安(湖州)の文人、書家で、字は季仇、見山。号は、庸齋または藐翁、遅鴻残叟。清末を代表する漢代の隸書を研鑽した書家で、とりわけ礼器碑を好み、遒麗、変化に特徴ある筆致で一家を成しました。咸豊5年(1855)の挙人ですが、楊★(山+見)の生涯に深刻な影響を与えたのは、44歳(同治・1862)の浙江地方の騒乱兵火で二人の息子と姉・兄嫁を失い、さらに自宅が全焼して蔵書や著作はすべて灰尽となり、生活面では決して楽な暮らしではなかったと想像されます。

16歳年少の呉昌碩が弟子の礼で接し、生涯心置きない交友がありました。このように紙箋を作っては生活の足しにしていたのかと考えられます。


 
 「日本の書」展参観記 −大野修作−
日本の書展図録
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7月8日から始まった「日本の書展」を見てきました。例年、関西展が皮切りですが、今年は東京展が6月16日から始まっています。しかも今年は50回展ということで「日本の書展を築いた‘’先達の書‘’が同時に開催されており、一度の50年分の名品の書を参観できました。「日本の書」展は今年で50回と言うことで、例年通り「現代書壇巨匠」「現代書団代表」「委嘱」「招待」「秀抜選」の五部門の構成で充実しておりましたが、更に先述の「先達の書」が参観できました。

「日本の書展」がすぐれていることは、新聞系などの所属を超えて書壇横断的に有力作家の網羅していることで、文化勲章受賞者7名、文化功労者18名など近代書を網羅しているとも言えますが、又問題点も見えてきます。本稿は現代書の巨匠の紹介では無く、私が日頃感じている問題点を指摘してみたいと思います。問題点の指摘と言っても統計上の数値を挙げての証明ではありません。言わば感想に近い物です。

その問題点というのは、書家にとって「日展特選2回」という物が一人歩きして、絶対的基準になりつつあることをおかしく思うのが普通の神経などと思ってしまいます。そもそも中国の近代で、有名で人気の或ある作家はほとんどが「科挙」に合格していません。挙人までは合格しても進士となれない人が大半です。裏返せば、当時の権力者が提出した問題に答えられない人の方が人気を博したのです。

とすれば日本で日展と言えば政権を担当する人たちの仲間に認められるに等しいことで、何も一喜一憂しなくても良いと言うことにもなるでしょう。歴代名作と言われる物は逆境で作られたものが多く、長い目で見れば逆境こそ修練の場と言えましょう。そうして日本の書の「先達の書」を見ると、味わい深い物が多いのに気づきます。今年は「日展特選2回」以上の価値を「先達の書」から探すと言うことも課題になるのでは無いでしょうか。

 
 金石過眼録ニ  −萩 信雄−

金石資料

今回は、金石拓本の校碑(校は較べる、の意)についての書籍を簡略に紹介しておこう。この分野の著述には、古く方若(ほうじゃく)の『校碑随筆』、さらにそれを大幅に増補した近年の王壮弘(おうそうこう)著の『増補校碑随筆』があって、金石癖のある人々にとって欠くことのできぬ書である。類する著述に、張彦生(ちょうげんせい)『善本碑帖録』(考古学専刊乙種第19号、中華書局)、馬子雲(ばしうん)・施安昌(しあんしょう)『碑帖鑒定』(広西師範大学出版社)がある。後二著は若干の図版は載せるが、王荘弘の増補は全くそれがない。筆者は昭和63年10月の『出版ダイジェスト』に、馬子雲の『碑帖鑒定浅説』の翻訳『中国碑帖ガイド』の書評を載せた時、該書に指摘する拓本の年代比定、またその特徴を文章のみで説明するのではなく、是非とも比定する根拠となる図版が欲しい、一言でいえば目で見る校碑随筆が必要であると述べた。述べたのは良いが、我国の貧弱な拓本収蔵数では不可能といえば、言い過ぎであろうか、もちろん、我国には有数の旧拓善本を収蔵する機関もあるにはあるが、絶対数が少ないのである。

ところが、2010年5月、上海図書館の仲威(ちゅうい)氏によって、『中國碑帖鑒別図典』(文物出版社)の巨冊が上梓された。これでもなお十全とは言い難いが、金石パラノイアが抱く「望蜀の嘆」は、半ば解消されたといえるであろう。上海図書館が収蔵する金石碑帖二十数万点、そのうち旧拓善本二千数百点を基礎にして、このような著述が可能であったと言える。

筆者は15年程前、上海図書館碑帖研室の仲威氏を訪問したことがあった。その研究室に積み上げられた、金石碑帖の堆積を見て一驚したのが、記憶に残っている。

 
 萩信雄氏講演「中国の古銅印と印譜」 −近藤 茂−

7月19日、日展会友で日本篆刻家協会常任顧問の井谷五雲氏が主宰する娯ツ文會研究会に於いて、本会理事で安田女子大学栄誉教授の萩信雄氏による講演会を企画しました。1時間少々の限られた時間でしたが、秦漢古銅印譜と明清原ツ印譜の分類、古銅印譜の種類、主要収蔵博物館の紹介、そして真贋についての具体例なども解説されました。とくに真贋については資料のために持参された贋物の銅印を図録を示され、有名な博物館が刊行する図録にも贋物が掲載されていると指摘されました。

また、中国の印章は戦国時代の古★(金+尓)に始まり、はじめは官・私印とも古★としていましたが、秦代になってから皇帝の印のみ璽と称し、その他の官印や私印は印、将軍の印は章としました。漢代になると、皇帝を頂点とする国の制度として整備され、サイズ、鈕形、印文など厳格に定められ、魏・呉・蜀の三国時代以降も漢の印章制度は受け継がれました。よって、本物の古銅印を見ればある程度の断代測定は可能であるとしますが、五胡十六国時代のような目まぐるしく国が変わった時代にまで断代測定を行うのは流石に困難であると断定されました。そして多見による鑑賞眼、鑑定力の重要性について、鈕形、印文などを例に分かりやすく解説されました。

講演後には持参された古銅印、石印材、印譜、希少書籍などの資料を実際に手に取って見てもらえる時間も設け、聴講者のみなさんも目を輝かせてご覧になっていました。


【講師著書紹介】
本書は2016年に刊行され、「墨」240号で大橋修一氏、福田哲之氏が詳しく書評を述べています。刊行当時から棋界待望の書論として知られましたが、氏が過去に発表した論文26編、漢碑、北碑、蘭亭、法帖、清朝金石学まで多岐にわたる内容で、全400ページという膨大な量に収められています。氏の過去の論文を見るに、常に無駄のない簡潔な表現を心掛け、幅広い学識と精密な論証は、正に清朝考証学を踏まえた学問的姿勢が窺えます。

金石書史研究
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萩信雄著 「金石書史研究」
萩信雄論集刊行会
定価:18,000円(税別)、送料サービス
2016年3月刊
ISBN:9784907823771

【お申込は】
アートライフ社まで
メール info@artlife-sha.co.jp
FAX 06-6920-3481

 
 新刊紹介  『一からの書道』
一からの書道
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日展会友で玄筆会所属の石川青邱氏が初心者や一からの書道を始める方に向けて古典の基本から臨書、創作へとつなげる為のHOW TO本「一からの書道」を刊行しました。

まずは臨書による基礎学習を解き、先人の臨書作品を掲載。そして創作へのプロセスとして倣書の重要性を詩文の選定〜原稿づくり〜作品まで具体例を挙げながら丁寧に解説、さらに書体別の倣書作品例を掲載しています。

後半には書体別に古典をテーマに楷書、行書、草書、小篆、金文、秦簡などの書体別に臨書と倣書の作品例を掲載しています。全体としてレイアウトがすっきりとまとまっており、指導する際の副教材としても便利で使いやすい編集となっています。

【お申込先】
「一からの書道」
監修:有岡★(+こざと) 著者:石川青邱/桑原正明/有信柏翆
ご希望の際は、下記2点お知らせのうえ、書道研究玄筆会事務局 (有岡方)まで、FAXにて申し込みお願いします。
FAX:049-247-6928
①ご希望の冊数
②送り先(ご住所・氏名)
●価格 1,100円(本体1,000円)
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・1〜3冊 92円
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・10〜50冊 806円

 


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