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メールマガジン Vol.32 2023年3月1日発行


厳しい寒さが続いておりますが、今週くらいから徐々に寒さも和らぐとの予報も出ています。それと引き換えではないと思いますが、花粉の飛散も例年より多量だそうです。読者の皆様、体調など崩されませんようお祈り申し上げます。
書法漢學研究32号、今号では小生を含め8人の執筆陣による布陣です。
メールマガジン32号、発信させていただきます。

【本号の内容】
 「書法漢學研究」第32号のご案内
 「書法漢學研究32号」刊行に際し−大野修作−
 金石書畫研究鑑賞会報告(1)−萩 信雄−
 第3回莵園会展−近藤 茂−
 新刊紹介『劉石庵詩帖』

「書法漢學研究」第32号のご案内
書法漢學研究第32号  
[翻訳]王暁光「長沙尚徳街東漢簡牘と後漢後期の墨書の研究」 井田明宏
明拓「乙瑛碑」拓本考 橋本吉文
宋克の「録蘭亭十三跋」と銭博の「摸宋克蘭亭十三跋」 富田 淳
閣帖前史考述二   萩 信雄
前人の篆刻に出会う 高畑常信
「篆隷を空中に創作する」ー清朝前期の書と書論ー 大野修作
蝸廬美術館蔵「白龍山人為疎梅先生写照」 近藤 茂
[書評]畢羅著『尊右軍以翼聖教』を読む
   ーヨーロッパにおける王羲之研究の最前線ー
石 永峰
 
 「書法漢學研究32号」刊行に際し −大野修作−

『書法漢学研研究』第32号をお送りします。世相も半ば混乱を来していますが、本誌はそのただ中にあって、冷静にものを見てゆきたいと思います。収録する内容は多岐にわたりますが、全部を紹介することは紙数の都合で無理ですので、一部にとどめたいと思います。

特筆すべきは富田さんの論考で、定番の「蘭亭序」を中心に、趙孟?の蘭亭十三跋、宋克『録蘭亭十三跋』と銭博『模宋克蘭亭十三跋』を論考の中心に据えていますが、基本的文献なだけに、当たり前の物として見落とされたりします。言わば中国書道史の中心に位置するだけに、丁寧な跡づけは貴重です。殊に日本への影響、細井広沢、中村佛庵、市川寛齋などに与えて影響まで視野に入っていることは貴重であり、我々は常に中国書道史を如何に超えて行くかの視点を持つためにも重要です。

また萩氏の「閣帖前史考述」は、実物の存在しない「保大帖」「昇元帖」についで、実態のよく分からない「澄清堂帖」を扱うに際し、林志鈞『帖攷』、容庚『叢帖目』などを頼りに解読を進めてゆき,限りなく実物、論拠を正確にあぶり出すことの必要性を説いています。帖学は実のところまだ実事求是の精神が足りず、目新たらしさ、興味本位が優先されて、まだまだ学術的考察が必要なことを説いています。傾聴すべき立場です。

 
 金石書畫研究鑑賞会報告(1)  −萩 信雄−
金石書畫研究鑑賞会1
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昨年末の12月17日(土)、大阪・蝸蘆美術館(1F、3F)に於いて標題のささやかな会を催した。テーマは「金石拓本の鑑定法」というもので、中国史上の金石史から説き起こし、書史の中でどのような影響を与えたのか、さらに個別の金石拓本の鑑定という特殊の分野での問題に論及した。

まずこの「金石」とは何か、我国ではしばしば鉱物に関する学ではないかと、誤解される向きもあるが、そうではなく、「金」はつまり金属、たとえば殷周時代の青銅器など、「石」はそれを素材とする碑刻など、広範囲に及ぶ器物を対象に、そこに鋳こまれ、また刻されたりする銘文を中心に研究する学術分野を指す。かつて故宮博物院長であった馬衡(ばこう)は、その名著である「中国金石学概要」(『凡将斎金石叢稿』中華書局)で次のように述べている。
 「金属や石材の材料によって客観的研究を行い、それにより史学に貢献するものでる。およそ甲骨の刻辞、彝器の款識、及び一切の金石、竹木、磚瓦などに文字のあるものは、すべて遺文である」。

金石書畫研究鑑賞会2
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そして、この「金石」という諸の淵源をたどれば、おもうに秦に始まると述べ、『史記』秦始皇帝本紀に載せている群臣の奏議及び始皇・二世の詔書に、「金石の刻」あるいは「金石の刻辞」とあるのにもとづいている。後世これらの刻辞も称して金石、あるいは単に金石と簡称するのである。と説いている。

この学問は、五代以前に金石学を専らにあうる者はなかったが、宋になってはじめて専門の学者があらわれた。この人物こそ蘇軾(そしょく/東坡:とうば)の先生で、北宋の文壇鉅公であった欧陽文忠公(おうようぶんちゅうこう/脩:しゅう)でる。この人の『集古録』が、金石に専者があるはじまりであろう。
だいぶ最初からややこしくなって恐縮だが、次回よりゆろゆろと説き説きおこすことにしよう。

 
 第3回莵園会展 −近藤 茂−
莵園会展
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書法漢學研究会理事のメンバーも多数参加している莵園会展は、昭和26年の兎年生まれの作家たちを中心とした、会派、ジャンルの垣根を超えたグループ展です。前回は2017年8月、長野県の「驥山館」で開催されましたが、今回は新型コロナ感染症の影響もあり、第3回莵園会展は実に5年ぶりの開催となりました。京都府京都文化博物館において2023年1月11日(水)〜15日(日)の開催、多くの方にご覧いただき、改めましてお礼申し上げます。

【出品作家】五十音順、敬称略
  安藤豊邨 日本刻字協会理事長
  井谷五雲 日本篆刻家協会理事長
  稲村龍谷 公益社団法人創玄書道会理事
  大野修作 近畿漢詩連盟会長
  奥 宣憲 公益社団法人日本書芸院審査会員
  北野攝山 太源書道会理事長
  深瀬裕之 日本書芸院理事(昭和27年生まれ特別参加)
  福島松韻 由源社 常任委員総務

 
 新刊紹介 『劉石庵詩帖』
劉石庵詩帖
詳細・ご購入

昨年末、民間に眠る名品シリーズ第9弾として「劉石庵詩帖」を刊行しました。今号表紙写真に採用したのは「劉石庵詩帖」本文図版の最終頁です。釈文は林宏作先生、解説を大野修作先生にお願いしました。本冊は乾隆帝(一1735〜1796)「御製唱和詩」に対する劉石庵の次韻詩です。

劉?(1719〜1804)、字は崇如、始め木庵、のちに石庵と号した。山東諸城の人。父・劉統勲も宰相であり、中国歴代書家で最も高い 地位に昇ぼり詰めた人と言えます。乾隆一六年(一七五一)進士、翌年、翰林院入り、その後、吏部、工部、礼部、兵部など尚書(大臣)を歴任し、嘉慶二年に體仁閣大学士(宰相)となった。

【釈文】
  奉寄
 松?吾兄雅鑑。
    十一弟?。

本冊の書かれた時期は癸卯、乾隆48年(1783)、劉?64歳の作です。一般庶民には入手困難であった豪華な紺紙に泥金で書いていますが、その発色は未だ輝きがあり、全く経年劣化を感じさせない名品です。

劉石庵詩帖
著者:釈文/林宏作 解説/大野修作
発行:アートライフ社 2022.12.12
価格:本体2,000円+税
ISBN:978-4-908077-22-7 C3070
仕様:A4判並製 24頁 全頁カラー

 


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