敬天齋主人の知識と遊びの部屋
メールマガジン

 
書法漢學研究メルマガ

メールマガジン Vol.34 2024年2月15日発行

【本号の内容】
 「書法漢學研究」第34号のご案内
 新理事長・中村伸夫先生よりご挨拶
 金石過眼録-3  −萩 信雄−
 「承続:新中国新発見書法主題大展」 −近藤 茂−

「書法漢學研究」第34号のご案内
書法漢學研究第34号  
漢簡の指名手配書に見える「黒色」の記載について 門田 明(元ノートルダム女学院中学・高等学校教諭)
説文解字箚記 橋下吉文(碑帖研究家)
〈李柏文書〉と〈李柏尺牘稿〉 (上)
− その二つの呼称がはからずも導出してしまった誤解
白須浄眞(広島大学敦煌学プロジェクト研究センター顧問)
〔稀覯資料紹介〕
潘祖蔭旧蔵〈太基山鄭道昭題字刻石四種〉その一
中村伸夫(つくば大学名誉教授)
閣帖前史考述三 帖祖問題−澄清堂帖(二) 萩 信雄(安田女子大学栄誉教授)
『ケ石如印存』とその周辺 高畑常信(東京学芸大学名誉教授)
「石竹図并賛」に見る貫名海屋の書法漢学 森岡 隆(つくば大学名誉教授)
 
 新理事長・中村伸夫先生よりご挨拶
中村伸夫理事長

このたび大野修作先生から本研究会の理事長のバトンを受け取りました。私は大野先生のように書法と漢学の両面の理論に精通しているわけではありません。重責の担い手としては不適格者であることを私自身が感じているところですが、適任者の方にバトンタッチするまでの間は、何とか微力を尽くしたいと思っています。

今回の第34号の刊行にあたり、これまでの三十数冊を書棚から取り出して目を通しました。執筆者は、斯界の権威から大学院生まで、体裁は、学術論文からエッセイまでと、通常の学会誌や学術誌とは異なる広がりをもち、テーマも多種多様に及んでいることを改めて確認した次第です。

昨今の中国では、書や金石学の研究が日本とは桁違いの規模と勢いをもって進められています。刊行物も多く、若い研究者の著述にも精読に値するものが少なくありません。考究領域の広まりと水準の高まりには驚くばかりです。本誌にもこれまで以上に大きな役割が求められています。

萩理事、中村理事長、近藤
現代書道20人展レセプションより
(萩理事、中村理事長、近藤)

本第34号には、簡牘の具体的な用途や機能をふまえた「黒色」という記載についての精細な考察(門田明氏論文)をはじめとして、長短あわせて7編が収載されています。簡牘学、文字学、古文書学、法帖学、印学の各分野の専門家による、いずれも新たな視点からの論考5編、そして、清代の名家による旧蔵拓と、江戸期の大家による貴重な書画についての紹介文2編です。

次号からも、本誌にふさわしい多彩なテーマにわたる各種論考の収載をめざします。

 
 金石過眼録-3 −萩 信雄−

乾隆・嘉慶の時代より、清朝末期になると、金石を媒介としての密接な交流が生れる。つまり「金石のサロン」が発生するのである。その特徴はいわば「書斎の金石学」ともいうべきものであり、そうした古い金石学の藩籬を脱却して、フィールドを重視する野外考古へと向かうようになるのは、1923、4年の河南新鄭・孟津・洛陽を実地調査した馬衡(ばこう)の時代を待たねばならないのではあるが。

それはともかく、金石学の泰斗・陳介祺(ちんかいき)と親子ほどの年齢差があった清末を代表するこの分野の大家・呉大徴(ごたいちょう)とは、面晤の機会こそなかったものの、金石を討論の資として、密接な書簡のやりとりがあった。それは、『?斎尺牘(ほさいせきとく)』と題して石印刊行なされていり書簡集を見れば、如実にうかがえよう。この呉大徴と工部尚書の潘祖蔭(はんそいん)、国子監祭酒の王懿英(おういえい)らは、金石を介しての友人で、官界では同一の派閥に属していた。清末最大の収蔵家の端方(たんぽう・筆者の旧蔵していた唐の「姜遐碑」もその一(図版)で、これは1995年9月のニューヨーク・クリスティーズの目録に出品されたもの。かつて上海の有正書局より影印出版された底本で、王?運(おうがいうん)、?徳彜(ちょとくい)、ケ邦述(とうほうじゅつ)、李葆恂(りぼじゅん)、楊守敬(ようしゅけい)、張祖翼(ちょうそよく)、羅振玉(らしんぎょく)ら20数人の題跋が書き付けられている。

姜遐碑   王居士?塔銘
有正書局影印本二種・姜遐碑と王居士?塔銘(『西?藝叢』総35期)

詳しくは拙稿「金石のたのしみ・姜遐碑-?法をつぐもの」『書画船』第一号・二玄社、1997.2)、のち『金石書史研究』(萩信雄論集刊行会、2016.3所収参照)清一代の朝野の遺聞、社会経済・文化の事蹟を捜輯した徐珂(じょか)の『清稗類鈔』の鑑賞類・端忠愍精鑑碑版の項に面白い話柄を伝えている。王文敏(懿英)・盛伯羲(せいはくぎ:c)・端忠愍(たんちゅうびん:方)がともに某宿駅に逗留していた時のこと、盛cと王懿英が碑版に関して盛んに談論している際中、端方が質問をすると、王懿英曰く、「爾は挾優飲酒を知る耳(のみ)。何ぞ此れを語るに足らん(少しばかり意訳すると、「君はたいこ持ちの俳優とむだ話しをすることしか知らないくせに、どうして、金石を語る資格があるものか」)とたしなめられた。これを聞いた端方は机を叩いて怒り、三年後また会おう、と言って別れた。

その後、端方は琉璃廠(ルーリーチャン)で碑版に精(くわ)しい李雲従(りうんじゅう)を得て、宋明の拓本や碑碣を購入し相いともに朝から晩まで議論を重ねて、碑版の収集に狂奔(きょうほん)し、三年を経ずして「精鑑」の名を得たという。時には謀略によって稀覯の拓本を手に入れたこともあった(舊燕(陳蓮痕)「端方図謀劉熊碑」『芸林叢録=x第八編、商務印書館香港分館、1973)。端方はのち宣統3年(1911)、鉄道国有政策の実施によって、四川省民の暴動が発生し、四川総督代理としてこれを鎮圧しようとした。ところが、武昌に革命が勃発し、端方指揮下の湖北軍もこれに呼応して端方を斬殺してしまう。王懿英はこれより11年前、無念にも拳匪の乱(義和団の乱ともいう)の犠牲となっていたが、二人に共通する不慮の死は痛ましい。(つづく)

 
 「承続:新中国新発見書法主題大展」 −近藤 茂−

昨年9月28日、中国文学芸術家連合会、中国書法家協会の主催により “承続:新中国新発見書法主題大展”が中国美術館で開催され、その展覧会図録『承続:新中国新発見書法主題大展』図録(670頁)が出版されました。

『承続:新中国新発見書法主題大展』図録

本展は古典と創作の相互関係に光を当てた大規模な企画展で、原拓本や複製品を展示し、現代書家や学者がそれぞれ臨書、創作、解題を担当し、いつどこで出土したのか、資料的価値や書法的な特徴などを示しつつ学習する機会を作ったものです。本書には新中国設立以来、新出土した商代から唐代まで書道関連資料58点を厳選し、拓本に加えて前述の臨書、創作、題跋、解題などを掲載しています。

懇意にしているフフホト大学・石永峰さんの友人で、企画者でもある中国書法家協会大型活動処副処長・李寧氏より本展図録のご恵贈賜りました。石永峰さんは本書のなかで《厳仁墓志》の解題を執筆しています。

図録1 図録2 図録3

▼開幕式の動画、関連書籍のご紹介

??云:在“承?:新中国新???法主?大展”?幕式上的致辞

??山:在“承?:新中国新???法主?大展”?幕式上的致辞

VR看展 | 58件(?)古代?迹的当代“承?”,“?秘”新中国新??

《新中国新???法大系》:六本碑刻墓志首次原碑原拓高清出版



【書法漢學研究】 【トピックス】 【バックナンバー】 【推薦の辞】 【メールマガジン】 【ご購読お申込】