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『書法漢學研究』第37号、玉稿を執筆された先生方に御礼申し上げます。本号も、古法帖に関する論文をはじめ、今期の万博にちなむ記事まで、多様な研究成果を収めることができました。
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「定武蘭亭」に関する従来の研究に大きく影響するという新発見の<過雲楼蘭亭>を扱った張之望・張嵋珥氏による巻頭論文(上)は、訳者の増田知之氏による精細な注記と合わせて、はやく全体を通読したいものです。
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30数年前、私は「定武蘭亭」の研究者啓功先生とともに、東京国立博物館を訪れたことがあります。東洋館の一室で富田淳課長(当時)のご配慮により、先生の希望通り呉炳本<定武蘭亭>の詳しい調査が許されました。この論文を読んで、その時の啓功先生の姿を思い起こした次第です。論文の「三・価値の方向」に啓功先生の研究に触れた個所があります。東博の一室で親しく呉炳本に対しながら、自己の見解について「内心は矛盾に満ちていた」であろうことが、今になって想像されます。
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玉素甫・艾沙氏による、敦煌文献の習字関連蒙書を扱った論文も、次号による後編の掲載が待たれるところです。われわれ日本人には、とかく誤解されがちな「筆勢」というもの。その初歩的学びについて、敦煌の地での訓練実態が明らかにされています。敦煌で行われていたことは、この地だけのことではなかったかも知れません。とにかく敦煌文献の蒙書が今日に伝わったことの意義は絶大です。
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最後の一編は、現在開催中の日本国際博覧会(大阪・関西万博)に関連するもので、1970年開催の大阪万博に展示された「万国博ホール壁書」についての詳細な記録です。
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今回の万博でも、日本書芸院や毎日書道会などが、「書」を世界にアピールすべく、それぞれに趣向を凝らした企画展を開催しました。私も1970年の万博を見学したことがありますが、当時はまだ書の世界とは無縁の高校一年生であり、今井凌雪という名の書家がいることも知りませんでした。
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